連載コーナー
本音のエッセイ

2017年8月掲載

大劇場の困った人々

ペリー荻野さん/時代劇研究家

ペリー荻野さん/時代劇研究家
1962年、愛知県生まれ。愛知教育大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。時代劇のスペシャリスト。「チョンマゲ愛好女子部」主宰。著書に『ちょんまげだけが人生さ』『幕末志士列伝―英雄の陰に女あり』ほか。

子どものころからの芝居好きで、月に何度か全国の劇場に足を運ぶ。

そこで気になるのが、観客のマナーだ。最近の劇場では、開幕の直前、携帯電話や時計のアラームなど、音の出るものの電源を必ず切るようにとアナウンスがある。

当たり前でしょ、と思われるかもしれないが、芝居の山場にピピピとかツーツーとか、時には着信音のとぼけたメロディーが客席で鳴り響く、なんてことが今もある。

もう一つ気になるのが、カバンの中身を探るガサガサ音。中のスーパーかコンビニ袋から何かを取り出そうとしているらしい。そういう人は、上演中でも平気で隣の人とおしゃべりを始めたりする。

ちなみに、これまでで一番驚いたのは、レコード大賞歌手の公演で、彼が自らギターをつま弾き、しっとり歌を聴かせている途中から、いっしょに歌い出した観客がいたことだ。

茶の間でテレビを見ているんじゃないぞ!と呆れたが、静かに観劇できない人はとても多く、劇場のいくつかでは、「お隣とのおしゃべりは他のお客さまの迷惑になるのでご遠慮ください」「前かがみでのご観劇は後ろのお席の方のご迷惑になります」「お帽子はお取りくださるようお願いします」とお願いアナウンスが増える一方である。

いったい、なぜ、こんなことになってしまったのか? 

私が見る限り、困ったことになっているのは大きな劇場で、小劇場ではほとんど聞いたことがない。そして、マナー違反をしているのは、たいてい中高年女性である。それも団体さんが多い。

その公演にあまり思い入れもなく、何となくおつきあいで来ちゃった感じの人々。舞台の俳優たちの動きを一瞬たりとも見逃さないよう目を凝らしている…とは、とても思えない人たちが、リラックスのあまり、さまざまな「迷惑行為」をまき散らしているのだ。

ある劇場で一幕目が終わって休憩時間になった途端、係員がササッと花道に立て札を置くのを見た。

札には「花道をお通りになりませんように」とある。思わず、「花道を通る人がいるの?」と聞くと、「結構いらっしゃるんです…」。

トイレや食堂への近道だからと花道によじ登る人々の姿を想像して、クラクラしてしまった。

楽しみに出かけた劇場で、迷惑な観客に遭遇したらガッカリだ。観劇ファン減少にもつながりかねない。そろそろ暴れん坊将軍か、遠山の金さんに叱ってもらわないと。

何とかなりませんかね?

(無断転載禁ず)

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