連載コーナー
本音のエッセイ

2016年4月掲載

わたしだけが知っている石仏の魅力

吉田 さらささん/寺と神社の旅研究家

吉田 さらささん/寺と神社の旅研究家
早稲田大学美術史学科卒。寺、神社、仏像、神道などをテーマに、雑誌記事や単行本を執筆。各種講座の講師、講演会、ツアーの企画と同行説明なども行っている。『石仏・石の神を旅する』(JTBパブリッシング)、『明日がちょっと幸せになる お地蔵さまのことば』(Discover 21)など、著書多数。

わたしは寺と神社を巡る旅を仕事にしている。はじめのうちは、「そんな趣味みたいなことが仕事になるはずがない」と説教されたものだが、パワースポットや仏像巡りがブームになったことにより、文章を書く仕事や講師の仕事が舞い込むようになった。かつては出版社に企画を持ち込んでも、「仏像に興味がある人なんかいないよ」と冷たく却下されたけれど、最近は前向きに検討してくれる。まったくブームさまさまである。

しかしこのごろでは、手放しで喜んでばかりもいられない状況になってきた。10年前は国宝に指定された著名な仏像を見るだけで心が震えたものだが、昨今では、そこまでの感動がない。なぜならわたしは「皆が自分と同じことに興味を持ちだすと、微妙に飽きてくる」というちょっと困った性格だからである。要するにへそ曲がりの変人。「誰も気づかないものの魅力をわたしだけが知っている」というひとり占め感がうれしいのであって、皆が「あれ、いいよね」と言いだすと、どれほど素晴らしい仏像であっても、わたしにとっての魅力は半減してしまうのだ。

にもかかわらず、寺や神社巡り自体は、以前にも増して熱心に行っている。そこには、著名な仏像や国宝の建物以外にも「わたしだけが知っているすてきなお宝」がどっさりあるからだ。それは石仏、つまり石でできた仏像である。「お地蔵さんのことですか?」と言う人もいるが、その答えはイエスでありノーだ。確かに石仏の中で一番多いのはお地蔵さんだが、実はそれ以外にも、おびただしい種類がある。しかもそれは、京都、奈良、鎌倉などの古都だけでなく、東京中心部にも、いくらでも存在する。庶民的な親しみやすい像が多いが、中には、国宝の仏像に負けないほど美しい芸術的な作品だってあるのだ。

渋谷や新宿にも大傑作があるんですよと言うと、「繁華街のどこにそんなものが?」と皆が不思議がる。「ほうら、やっぱり誰も気づいていないんだ」と、思わずほくほく。

だが、「わたしだけが知っている感」がうれしいのと裏腹に、見つけたお宝を自慢したいと思うのも人情である。2年ほど前から、早稲田大学のエクステンションセンター(生涯学習機関)で、「東京の石仏さんぽ」という講座を始めた。都内の石仏が多い寺に生徒さんをお連れし、各自お気に入りを見つけて写真を撮っていただく。生徒さんたちは、以前は石仏など見たこともなかったが、今ではその奥深い魅力にとりつかれ、講座以外でも、自発的に石仏を探すようになったという。講座の最後に皆さんの写真を見せていただくと、それぞれが独自の視点で石仏を捉えておられ、実に興味深い。

でも、あまりにもその魅力を力説しているうちに、皆が「石仏っていいよね」と言いだすと困るので、どうか、ここで読んだことは他言なさらぬようにお願いしますね。

(無断転載禁ず)

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