連載コーナー
本音のエッセイ

2015年9月掲載

たたら製鉄に学ぶ

赤池 学さん/インダストリアルデザイナー

赤池 学さん/インダストリアルデザイナー
東京都出身。筑波大学生物学類卒業。ユニバーサルデザイン総合研究所所長として、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手掛ける。「自然に学ぶものづくり」を提唱し、CSV開発機構理事長、環境共創イニシアチブ代表理事、科学技術広報財団理事も務める。

私は、「ユニバーサルデザイン」をテーマに、商品や施設、地域開発を手掛けてきた。ユニバーサルデザインの本質は、「みんなとシェアできるデザイン」である。ここでいう「みんな」とは、「70億人の今を生きる地球市民」、「まだ見ぬ未来の子孫たち」、「今は亡き先人たち」、そして「ヒトを含めたすべての生命」だと考えている。

ここ最近の環境学や経済学の多くのテキストには、「環境」と「社会」、「経済」が鼎立(ていりつ)した社会構造の図が描かれている。しかし、この模式図を肯定した時、「経済活性のために、自然生態系の破壊もやむを得ない」といった「カニバリズム」(共食い)が必ず起きる。

実は、真実の社会構造とは、まず自然生態系としての「環境」があり、そこにコミュニティーとしての「社会」が内包され、その社会を動かすエンジンの一部として「経済」を位置づける、3つのリングの入れ子構造で描かれるべきである。自然環境に癒やされる価値、お金がなくても満たされる社会があるように、私たちを育む自然環境までを「みんな」として捉える感性が大切なのだ。

関連した興味深いデータもある。東北大学は東日本大震災以降、日本人の嗜好調査を行い、最も大切にする価値と消費投資額を相関させた調査結果を発表している。それによれば、低所得層は「ものの利便性や効率性」を、中所得層は「ものへの主体的参画」を、高所得層は「自然に癒やされ、包まれる暮らし」を求めていることが分かる。便利さに反応するのは、直言すれば心とお財布が貧乏な人々だけなのだということである。

日本には、「環境」と「社会」、「経済」を見事に循環させた先人たちの軌跡が残っている。

奥出雲一帯には今も、「たたら製鉄」が残っており、「玉鋼(たまはがね)づくり」が行われている。たたら製鉄は、山から砂鉄を採取し、それを開削した水路に流してたたら場まで運び、その砂鉄を土で作った釜の中で三日三晩、山から切り出した木材由来の炭とともに炊き上げ、鉄の母と書かれる「鉧(けら)」を作る。そこから採取できるわずかな玉鋼で、刀工たちは世界に誇る日本刀を作り上げてきたのだ。

そして、たたら製鉄には、その先の物語がある。砂鉄がなくなり、炭づくりのために山の木材がなくなると、出雲の人々は砂鉄を流していた鉄穴(かんな)流しの水路を用水路として再利用し、木のなくなった山を棚田に変えて、米づくりを行ってきたのである。

私たちは、ものづくり、食づくり、人づくり、そしてまちづくりを循環させながら、持続可能な生業と地域を形にしてきた先人たちの感性に、学ぶべき時代を迎えているのだ。

(無断転載禁ず)

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