連載コーナー
本音のエッセイ

2014年8月掲載

ボルネオで見たW杯「地球共感圏」

竹村 真一さん/触れる地球ミュージアム主宰・京都造形芸術大学教授

竹村 真一さん/触れる地球ミュージアム主宰・京都造形芸術大学教授
1959年生まれ。Earth Literacy Program代表。東京大学大学院文化人類学博士課程修了。世界初のデジタル地球儀『触れる地球』で05年グッドデザイン賞・金賞、2013年キッズデザイン最優秀賞・内閣総理大臣賞を受賞。著書「地球の目線」(PHP新書)など多数。

私は20代のころ、フィールドワークで世界各地を歩き回りました。忘れられないのは、ボルネオの山奥で先住民(戦後まで首狩り族として鳴らした人々です)と見たワールドカップです。彼らは、発電機を回して1日2、3時間、白黒テレビで衛星放送を見るのですが、ちょうど伝説になった「マラドーナ5人抜き」が繰り広げられたときで、彼らと一緒に興奮しながらテレビを見たわけです。

インターネットが普及する以前の出来事ですが、電気もないへき地で「世界が共振している」ということに「地球人のメディア」「地球規模の感覚神経系」の誕生の予感を感じました。

『触れる地球』はそうした経験をもとに生まれています。“地球の体温と体調”をモニターする生きた地球儀。そこには、いまこの瞬間に発生した台風や地震、船や飛行機の運航状況など、リアルタイムのデータが映し出されます。他にも、カツオやマグロが黒潮に乗って回遊する様子や、森林破壊や気候変動の現状、大陸移動の歴史、生物多様性、人口・都市問題など、「地球の現在」をモニターできます。JAXA(宇宙航空研究開発機構)や海洋研究開発機構、国立環境研究所、ウェザーニューズなどの最先端の研究機関や企業より100種類以上のデータをご提供いただいています。まさに、日本の英知を結集した“オールジャパン”のプラットフォームです。

現在、IT技術が進み、情報洪水と言われますが、本当に大切な情報は少なく「情報過疎」の時代だと思います。またITは人間同士のコミュニケーションに活用されているだけで、地球とコミュニケーションするメディアはまだありません。冒頭にあるような経験をした私は、情報は身体性や実感値を伴ってこそ解像度が高まる、と考えています。

『触れる地球』は自分の手で自由に回すことも、生きた地球の体調の微妙な変化をモニターすることもできます。地球の1000万分の1のサイズである直径1.28メートルの地球儀で見ると、地球の空気の層はわずか1ミリ。また、地球から38万キロの距離にある月はここから38メートル離れた場所に浮かぶバスケットボールと、地球や宇宙のスケールを“体感”できます。

江戸の哲学者三浦梅園は「枯れ木に花が咲くに驚くより、生木に花が咲くに驚け」という言葉を残しています。私たちが生きている地球、あるいは私たち人間そのものが奇跡の産物であり、当たり前の物事のなかに豊穣な世界が眠っている。「既知の未知」とでも言いましょうか。知っているようで知らないことは意外に多いのです。地球目線の窓をデザインし、世界を可視化することで、もっとワクワクする未来が開けるはずです。“地球人”を育てるメディアとして普及させていきたいと思っています。

(無断転載禁ず)

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