連載コーナー
本音のエッセイ

2010年11月掲載

ハダカの島にかかる虹

森田 正光さん/お天気キャスター・気象予報士

森田 正光さん/お天気キャスター・気象予報士
1950年愛知県生まれ。 92年フリーのお天気キャスターとして独立し、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオで活動するほか、環境省の生物多様性に関する広報組織「地球いきもの応援団」メンバーとして参加。近著は『大手町は、なぜ金曜に雨が降るのか』(梧桐書院)など。

日食など天体の動きは、計算で正確に求められます。でも、空の状態は直前まで分からないもの。最後まで、天気に委ねられているのです。

20年ほど前のハワイの皆既日食は、厚い雲に隠されてしまいました。そのとき、私も若かったので「それじゃ、次の機会に…」と楽観的でした。でも、隣にいた現地の老人がおいおい泣き始めるのです。理由を聞くと、「自分はもう高齢だ。生きているうちに日食は見られないだろう」と言われました。ズシリと心に響きました。

2009年7月、中国の上海。還暦間近の私は、今度こそ!と意気込んでいたのですが、あろうことか雨に降られてしまったのです。数分前まで、なんとか「欠けた太陽」が見えていたというのに。そのとき、20年越しにハワイの老人を思い出しました。ああ、私も日食に縁がなかったのだろうか…。

チャンスは不意にやってきました。2010年7月、南太平洋のイースター島まで行けることになったのです。そして、三度目の正直とばかりに、ようやく皆既日食を体験しました。遠くの空から月の影が動いてきて、辺りが一瞬にして暗くなり急にひんやりする…。あの神秘的ともいえる感覚は、言葉にするのが難しいです。

日食だけでなく、この島ではいろんなことが新しい経験でした。モアイ像の前で写真を撮っていると、実際はほとんどレプリカだと教えられてガッカリ。本物のモアイ像は数が少なく、しかもフェンスに近づくとブザーが鳴って警備員に制止されるのです。マナーが悪い観光客対策とはいえ、古代のロマンもちょっと興ざめでした。

古代と書きましたが、モアイ像が作られたのは10~17世紀で、大昔というほどではありません。モアイ像は村の守り神であると同時に、部族同士の権力の象徴でもありました。このためどんどん巨大化して、運搬や設置に多くの木材が切り出されたのです。小さな島から森が消えると、どうなるでしょうか?土の栄養分が海へ流れ出して、作物が育たなくなります。文明が衰退した理由は、食糧不足が原因の一つと考えられています。イースター島は現在でも、街路樹があるほかはほとんど荒れた草地です。一度失った森は、そう簡単に再生しないのです。

水平線から、黒い雲が近づいてきました。ひとしきり雨を降らせると、気が済んだかのように去っていきます。再び陽が差し始めると、草原から海へ大きな虹がかかっていました。虹の根元を、こんなにはっきり見たのも初めての経験です。日食ほど珍しくないとはいえ、目が覚めるような美しさです。でも、これを「希望の架け橋」ととらえてよいものか、よく分からないまま海風に吹かれていました。

(無断転載禁ず)

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