連載コーナー
本音のエッセイ

2010年10月掲載

川柳あれこれ

やすみ りえさん/川柳作家

やすみ りえさん/川柳作家
1972年兵庫県生まれ。公募川柳の選者・監修を務めるかたわら、全国を巡り子どもたちに川柳の楽しさを伝える活動も行っている。幅広い年齢層を対象とした川柳講座も好評。句集に『ハッピーエンドにさせてくれない神様ね』(新葉館出版)など。全日本川柳協会会員。文化庁文化審議会国語分科会委員。

〈月見客筆をかみかみさて出来ぬ〉

これは江戸時代に詠まれた川柳です。お客として名月を楽しむ宴に招かれるのはうれしいこと。けれど、ほんのり酔いがまわってきたころにふいに短冊を手渡され「一句どうぞ」なんて困ってしまったよ、という内容です。

同じく“お月見”を題材にしたものは、ほかにもあります。

〈からかさで小言言い言いすすき買い〉

こちらは楽しみにしていた十五夜の空模様がすぐれず、心待ちにしていたお月さまが見えるかどうか分からないのに一応お供えのススキは買っておかなきゃしようがない…と文句を言いながら季節の恒例行事を迎えている様子です。いずれにせよ、当時の人々の飾らない様子が描かれた川柳が今でも数多く残されています。

ところで、「川柳」というと皮肉や社会風刺のみを扱う五・七・五のイメージが強いようで残念です。

本来はもっと幅広く“人間を詠む文芸”。本格的に川柳に携わる者の多くは、そんな「人間の詩」を十七音に紡いでいます。

〈抱きしめた風はあなたの温度です〉(りえ)

そもそも始まりは江戸時代からですが、初代の柄井川柳(からいせんりゅう)が流行らせ、庶民の間で人気が出ました。当初は「前句付け」と呼ばれていて「切りたくもあり切りたくもなし」という七・七のお題に合う五・七・五を組み合わせる手法で楽しまれました。例えば「盗人を捕えてみれば我が子なり/切りたくもあり切りたくもなし」というようになるのです。

この選を務めたのが柄井川柳で、選ばれた作品には賞品も用意されていました。「前句付け」は、もはや一つのエンターテインメントとして存在していたのですね。

現代の川柳は、さまざまなテーマやお題で詠みます。その気軽さから企業や町ぐるみで川柳募集をすることも多く、私も選者として関わる機会が度々あります。新商品や企業のPR、また市町村のイベントに川柳が一役買っているのはとてもうれしいことです。紙と鉛筆さえあれば、いつでもどこでもお題と向き合い作品を詠むことができますもんね。ここでも入選すると賞品や賞金がもらえることが多く、江戸時代と変わらぬ楽しみ方がなされているわけです。

秋の夜長、読者のみなさんもふと思いついた気持ちを十七音にしたためてみてはいかがですか?

〈「またね」って言ってくれないから秋ね〉(りえ)

(無断転載禁ず)

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