連載コーナー
本音のエッセイ

2010年9月掲載

やさしい日本語

安西 祐一郎さん/認知科学者

安西 祐一郎さん/認知科学者
1946年生まれ。69年慶應義塾大学工学部卒業。74年同大学院工学研究科博士課程修了、工学博士に。カーネギーメロン大学客員助教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学理工学部教授・慶應義塾学事顧問に就任。文部科学省参与、中央教育審議会大学分科会長などを務めている。

しばらく前のことになるが、中国の大学に招かれて上海を訪れたとき、アテンドしてくれた女子学生がいた。こちらへの対応、立ち居振る舞いすべて素晴らしく、とくに日本語が流ちょうで、ほとんど日本人のようにしゃべる学生だった。

日本には行ったことがないと言うので、どうしてそんなに日本語が上手になったのかと聞いてみると、小学生のときから日本語を勉強しているからとのこと。ではなぜ小さいときから?と重ねて聞いてみると、「だって、日本語ってやさしいから」という返事が返ってきた。

日本語がそんなに易しいとは思えないが、と言ったら、「易しいではなくて優しい、日本語の音は耳に優しく響きますから」と答えてくれた。そう言われてみれば、ラジオに流れる文芸作品の朗読か何かを思い出してみると、トゲトゲした音はないし、人を脅かすようなきつい発音やアクセントもない。

日本語だけでなく日本に関心を持つ学生たちは、中国だけでなくアジア諸国にはたくさんいる。マスコミはジャパンバッシング、つまり世界中で日本への関心が薄れていると繰り返し報道するし、大人の世界ではその通りの面もあるが、アジアの若い世代にとって日本はまだ憧れの国だ。その心は、若者が自由に発言や行動でき、衣食住が健康的で洗練されていて、生活環境が清潔で安全で、科学技術が進んでおり、欧米流の民主的な社会をいち早く実現しながら独自の文化を維持している、ということである。

日本の若い世代も、彼らアジアの若い人たちと語り合う機会が急速に増えている。戦後何年かの間、日本人の気持ちが欧米だけに向いていたのと違い、今の若い人たちはアメリカ、ヨーロッパ、アジア、多くの地域や国々の人たちと区別なく付き合うようになっている。

日本の若い世代の多くは、家族や友人を大事にし、約束を守り、ボランティア活動を嫌がらず、民主的な話し合いを重んじる人たちだ。日本の若者は活気がない、あいさつもしないと怒る大人は多いが、実際の若い世代はむしろ大人たちより常識的な人間が多いのではないか。次の時代を担う新しい世代は確実に育っているのではないか。大人世代の混乱を見るにつけ、その思いがますます強くなっている。

(無断転載禁ず)

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