がんばれ!
- 原田 大二郎さん/俳優
- 1944年、神奈川県生まれ。明治大学法学部を卒業後、劇団文学座に入座。1970年、映画『裸の十九才』で“原田力”の名でデビュー。その後、ドラマ『Gメン’75』で、名前を知られるようになり、映画、舞台にとどまらず、バラエティー、声優と幅広く活躍。明治大学特別招聘教授。
昭和19年に生まれて、ボクが物心ついたころは、まだ国中がボコボコだった。アメリカ軍の空襲でグラマン戦闘機が落としていった爆弾が作った穴に雨水がたまって、そこら中「ため池」のようになっていたのだ。民家の錆びた赤いトタン屋根と、上陸したばかりの進駐軍の、緑色のかまぼこ兵舎。朝鮮戦争が始まって日本中が特需で湧いた。朝鮮戦争にはぐくまれ、東京オリンピックの興奮と安保闘争の渦の中で成長していったぼくらの青春時代。もしかしたら社会体制が変わって、世の中がひっくり返るかもしれない、という思いは、毎日国会のあたりから聞こえてくるデモ隊のリズミカルなシュプレヒコールや、新宿東口を守る機動隊の、群衆を蹴散らす「殺せー」という怒号とともに、ボクらの胸を熱く切り裂いたものだ。
世界唯一の被爆国として、戦争の傷跡も生々しく、ゼロからの出発というよりも、マイナスから始まった日本の「戦後」。電化製品、音響機器、自動車産業の3本の柱で、右肩上がりの経済成長を続け、バブルの喧噪の中につっこんでいった。
バブルがはじけ、青白く目覚めた「ボクの鉛の王子」は、デフレの真ん中で、すっかり呼吸困難に落ちこんでいるようだ。「流通革命、価格破壊」と威勢が良かったのは、ほんのつかの間。気が付いてみれば、そこら中、金詰まりの悪循環だ。日本人全体のあまりの落胆ぶりに、互いの顔を見るのもはばかれるほどだ。
でも考えてみてください。「景気が悪い」といって、それは今に始まったことだろうか?景気なんて、みんなの心の反映にすぎないんじゃないか。ぼくは俳優だ。学生時代、「舞台の真実性の面白さ」に目覚めて以来、一心不乱に俳優をやってきた。こつこつ、演劇の道を歩いてきた。振り返れば自分を取り巻く演劇環境の、いかに貧しいことか。その貧しさは、自分の心の反映に違いない。シェイクスピアも言ってるじゃないか。「演劇は社会を映す鏡だ」って。自分の心に革命を起こさなくちゃ。そう、演劇は革命なんだ。「今のままでいい」という保守主義と「今よりいい世の中を」という革新派の狭間で、「ぶっ壊せー」と叫びながら、無我夢中で駆け抜けるのが演劇人の情熱だったんじゃないか。「革命」がもたらす不安定な危うさ。その、危うさこそが、演劇の本質なんだ。安定を求める心を、ぶっ壊すことでしか、演劇人としての存在意義は見つからないと思える今日このごろである。
「笑い」と「涙」は、不安な心が、もたらしてくれるのだ。
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