連載コーナー
本音のエッセイ

2010年3月掲載

おいしく食べる・私たちの責任

土井 善晴さん/料理研究家・フードプロデューサー

土井 善晴さん/料理研究家・フードプロデューサー
故・土井勝氏の次男。スイス・フランスでフランス料理を、大阪の「味吉兆」で日本料理を修行。1992年「土井善晴おいしいもの研究所」を設立。早稲田大学文化構想学部非常勤講師をはじめ、講演会活動、レストランなどのプロデュース、テレビ朝日系「おかずのクッキング」を19年間担当など、幅広く活躍。

美味しい椎茸が食べられなくなったと嘆いている。干し椎茸も味が落ちた。以前の椎茸には豊かな風味があった(以前といってもここ3、4年)。 

椎茸そのものに水分が多く含まれていて、火にかければ、すぐにジブジブと沸騰してきて火が入った。頭が黒くて平べったくて、力強かった。好みの料理は、襞のある裏側を、焦げ目がつくほど押しつけて、フライパンでバター焼きにする。皿に取って、醤油をちょっと垂らすと、トロリとした口当たり、香ばしい香りが強く、濃い旨味が口いっぱいに広がった。

ところが、最近出回る椎茸は、丸い頭で色白できめが細かくてやけに硬い。水気が少ないから傷みにくく、店頭に長く置けるのが利点だろう。多くの品種改良は作り手、売り手の都合によってなされることが多い。同時に食味や風味を失ってしまっては、品種改良と言うべきではない。

茄子の刺が収穫の際に手に触れて痛いので、刺なし茄子があるらしい。かつて胡瓜にも刺があったがなくなった。白い粉もなくなった。刺は胡瓜自身が身を守る自然の姿。白い粉は農薬をかけたようだと消費者が思うのでなくしたらしい。胡瓜は品種が変わるたびに皮が硬くなって風味が落ちた。今や胡瓜の匂いもない。そういえばスイカの匂いもなくなった。

皆さん!昔の野菜がどれほど美味しかったかを思い出していただきたい。改良を進める育種、バイオのメーカーが研究開発して作り出す新しい商品は、消費者の要望、要求によって生み出されるというメーカーの言い分は、信じがたい。

「味がない!」と私たちは文句を言わなさ過ぎる。「不味くなった」「美味しくない」「匂いがない」と言わなければならない。言うためにはそのことに気づかないといけない。食べ物に対してもっと感性を働かせるべきであろう。値が安ければ良い。高いから美味しいのだ。テレビであの人が美味しいと言っているから、というのではつまらない。

『自分自身で美味しいと判断して選び、料理して味わうことが、生きる力を磨く』

祖母の世代は味に厳しかった。これでなければならないと譲れないものがたくさんあった。素直に美味しいものを食べる努力をしていた。ゆえに、生きる力も強かった。私の周りには、まだまだ美味しい野菜作りをしている人がいる。真の味を知る人も大勢いる。「これが美味しいものなのだ」という感性を、ためらわず次の世代に伝えなければならない。

(無断転載禁ず)

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