連載コーナー
本音のエッセイ

2008年11月掲載

成功は失敗の母

海江田 万里さん/経済評論家

海江田 万里さん/経済評論家
1949年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、金融、経済評論家の第1人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などを舞台に、分かりやすく税金や経済の解説を行う。最近の著書は『海江田万里の音読したい漢詩・漢文傑作選』(小学館)など。

「成功は失敗の母」と書くと「あれ、『失敗は成功の母』の間違いでは?」と思う人が多いでしょう。たしかに、ノーベル賞受賞者の話などを聞くと、何度も実験に失敗して、改良を繰り返し、その結果、成功をもたらした例がいくらもあります。その意味ではまさに「失敗は成功の母」なのでしょうが、私は最近の日本企業の浮沈を見ていると、過去の成功体験が、現在の失敗の原因になっているのではと思えるケースが多々みられます。

現在の日本企業を取り巻く状況は「円高」「株安」「資源高騰」の三重苦ですが、有名企業のトップのなかには意外にも、楽観的に「何とかなるさ」と考えている人がいます。彼らが持つ楽観論の根拠は、かつて70年代の「円高」「株安」「資源高」をしのいで、80年代に日本企業が画期的に成長した経験にあります。

「当時のオイルショックで、わが社は省エネ技術を開発して、これを乗り切ることができた。今回も欧米の企業が金融ショックで痛んでいるから、海外の市場を拡大するいいチャンスだ」と発言している社長もいました。

たしかに、省エネ技術はこれからもビジネスチャンスであることは、間違いありませんが、70年代、80年代の当時と違って、欧米企業の追撃が激しく、日本の1人勝ちとは言えない状況になっています。また、ここ数年の間に中国やインドなどの新興諸国自身が技術力を付け、単に日本企業に市場を提供するだけの存在ではなくなっています。

私は企業のトップに「もっと悲観的になれ」といさめているわけではありません。企業だけでなく組織のトップに立つ人物は、ネアカで楽観的であるべきだというのが、私の持論ですが、一方、危機管理の要諦は、「戦略的には楽観的に、戦術的には悲観的に」です。大局的な楽観論の前に、一つ一つの部分では悲観論者に徹して、細かな対策を講じなければならないと思います。私が心配しているのは、トップの中には現在の危機を戦略的にも、戦術的にも楽観視し過ぎる人がいることです。特に、「過去に上手くいったから、今度もそれで何とか乗り切ることができるだろう」という根拠のない楽観論は禁物です。その意味で「成功は失敗の母」という逆説を敢えて紹介しました。企業のトップだけでなく多くの国民にこの言葉を今一度かみ締めてほしいものです。

(無断転載禁ず)

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