連載コーナー
本音のエッセイ

2008年7月掲載

才能は努力の後についてくる

秋山 仁さん/理学博士、数学者

秋山 仁さん/理学博士、数学者
1946年10月東京都生まれ。上智大学大学院数学科を修了後、ミシガン大学数学客員研究員、東京理科大学教授、科学技術庁参与、文部省教育課程審議会委員などを経て、現在に至る。現在は東海大学教育開発研究所所長、(NPO)体験型科学教育研究所理事長などを務めている。専門誌にグラフ理論、離散幾何学に関する100編を超える論文を発表、啓発書、専門書など約90冊を執筆。

何年か前、40年ぶりぐらいで中学のときのクラス会に久し振りに参加した。2次会、3次会と梯子して真夜中になって行く店もなくなり旧友茂夫君の家に迷惑も顧みず、多勢で押しかけた。茂夫君のお母さまは90歳近くになっていたがお元気で、中学時代しょっちゅう遊びに行っていた私を見て、“エッ、あのできなかった秋山君が数学者になったの。茂夫は秋山君より数学がずっとできたんだから茂夫も数学をやっていればノーベル賞が取れたのに”と茂夫君に残念そうに呟いた。確かに茂夫君の方がずっとできたのでショックだった。でも、お母さまの考えはどこか違う。

現在わが国では子どもたちの学力低下が問題にされ、ゆとり教育が見直され、またかつてのように知識・技能を叩き込み、テストによる勉強の動機付けが復活しつつある。また頭の良い子が尊重され、悪い子は何となく片隅に追いやられていくように感ずる。この流れは本当に正しいのであろうか。クラス会で目の当たりにする風景は、頭の良し悪しが彼らの人生において重要な要素になっているのではなく、その後の個々の努力や頑張りが大きな比重を占めているように感じるからだ。私は“才能は努力の後についてくる”ことを訴えたい。若者に努力の大切さや努力の仕方を習得させること、努力しさえすれば不可能を可能にできるという体験を多くさせることが、真の教育と考える。

現在、私は教育者のはしくれとして、世界各地を訪ね歩き、若者たちに数学の面白さを説いている。若者たちの中には、自分は頭が悪いから、数学を勉強してもできるようにはならないと勘違いしている人もいる。私は自分の体験に基づき、「私だって、学生時代、随分数学で苦労したんだ。だけど、ずーっとやり続けていたら、少しずつだけど進歩したんだ。だから、誰だってやれば必ずできるようになる」と本音を打ち明かすこともある。しかし、信じてくれない若者もいる。そこで、自ら範を垂れるつもりで、7、8年前から学生時代、1番不得手だった音楽に挑戦することにした。私は音痴で、ろくすっぽ楽譜も読めない。小学校の合唱の時、音楽の先生から「秋山君、もっと小さな声で歌いなさい」と注意されたほどの音痴だ。でも、努力を続ければ、きっと克服できると信じて、アコーディオンの弾き語りに挑戦し、講演会で恥を忍んで披露する。自分で言うのも厚かましいが、かなりうまくなった。

(無断転載禁ず)

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