使いこなすって大変
- 斉藤 由貴さん/女優
- 1966年生まれ、神奈川県出身。1984年少年マガジン(講談社)第3回「ミスマガジン」でグランプリに選ばれる。以来、さまざまなドラマや映画に出演。歌手としてのヒット曲も持つ。詩や小説、エッセイなど著作も多く、マルチに活躍。近年の代表作は、「吾輩は主婦である」(06年・TBS)、「お・ばんざい!」(07年・MBS)など。セルフカバーシングル「悲しみよこんにちは(21st century ver.)」が好評発売中。今年2月公開、東映邦画系映画「KIDS」に出演。
そういえば、マンション住まいが長い。3番目の子どもの妊娠が分かった時点で引越してきた今の横浜のマンションが3年、その前は東京・目黒区自由ヶ丘のマンションに6年、そしてその前はやはり目黒区碑文谷のマンションに2年。独身時代、1年だけ試しにマンション住まいをしたのを入れれば計12年、つまり人生の4分の1以上はマンションで暮らしていることになる。
私は生まれてからずっとフツーの一軒家で育ってきたので、実際“マンション"というモノに憧れもあったのだが、こう数えてみると無意識に、知らず知らず積み重なった数字ではあるが結構大きい。
けれど、賃貸ではなく購入したのは今回が初めてで、しかも3年前、出来たてホヤホヤに入居したので、いろいろ最新機能が付いていてそれまでとは違い、このマンションではなかなか興味深い体験ができて楽しい。
その中でも最も面白いモノのひとつが、「光彩認証システム」というシロモノである。これは、私の現住するマンションの販売時の目玉アイテムで、両手がふさがっていても、鍵を取り出さなくても、その機械のあるポイントの前に黒目を合わせると機械の方で黒目の中の光彩を読み、オートロックの自動扉を開けてくれる、というシステムだった。光彩は、指紋のように皆違うので始めに登録しておけば住人であればとっても便利なスグレモノ…のはずである。
しかし。
「鏡をみてください」「右に寄ってください」「もう少し離れてください」「もう少し近づいてください」…。そしてしばし沈黙。機械が考えているのだろうか。居住者か、不審人物か。ドキドキと、判決を待つ気分。するとおもむろに、「認証できませんでした」フザケるなー。こっちは両手に重い荷物を持って、エスニックダンスよろしく小首を前に、後ろに横に…。帽子を脱いで、眼鏡を外して。ハタから見たら相当笑える状況でも、便利だと信じて時間を費やしているのに。もちろん、スマートにいくこともある。しかし、1度ハトのように小首を前に後ろに、苦闘している間にサラリーマン風のおじさんがさっと鍵を出してフツーに後ろを通って自動扉を抜けてゆくという経験をして以来、光彩認証システムを使うことに及び腰になっているのも事実だ。別にこのシステムの悪口を言っているわけではない。しかし、新型マンションの最新システム…。私にはなかなか手強い相手である。
(無断転載禁ず)