アイドルと「本音」の変遷
- 泉 麻人さん/コラムニスト
- 1956年東京生まれ。慶応大学卒業後、週刊TVガイド編集部を経てフリーのコラムニストに。現在「読売ウィークリー」など数誌にコラム、エッセイを連載。11月下旬、淡交社より「東京七福神のまちあるき」が刊行。
中森明菜がデビューしたころ、「本音を語るアイドル」なんて表現がよく使われていたことを思い出す。一方同じころ、ライバルの松田聖子には、真逆ともいえる「ぶりっこ」のあだ名が付けられていたわけだが、そんな80年代に入るころから「本音」を吐くアイドルやタレントがもてはやされるようになってきた、という印象がある。例えば、中森と同時期にデビューした小泉今日子は、当初こそ聖子系のぶりっこアイドルの雰囲気だったのが、髪を大胆にカットして、あけすけな発言をするようになってから、人気が一気にブレイクした。ヒット曲の「なんてったってアイドル」はアイドル自身が旧式アイドル像を茶化したような内容の曲でもあった。
それから二十余年が経過した現在、自らのブログで本音を語る…というのが、タレントたちの1つのお約束となった。無論、冒頭から書いている本音とは、正確には「本音っぽいこと」といった方がいいのかもしれない。しかし、そういったブログのいくつかを散見してみると、本音の元の意味でもある「口に出して言うには憚(はばか)られる」ようなことを、いまどきのアイドルは奔放に語っている。
「あたしって実は○○フェチなんですよ」
「コクっちゃうとベンピというよりゲリ系で」
さすがに「こっそり子を堕ろした」なんてことまで告白するアイドルはいないものの、もはやその内容は、お笑い芸人のものとさほど変わらない。南沙織や木之内みどりはウンチもしない…と、なかば信じていた70年代アイドル世代のオヤジはガク然とする。
ブログに限らずテレビ番組も、タレントが素(す)の喋りを展開するようなものが横行している。妙齢の女性タレントがカフェやレストランに寄り集まって、かなり露骨な恋愛談議をやりとりする番組。ま、この種のものは、自然体の一面をセールスしようと、いかにもオフっぽいつくりに仕立てているだけで、本当にヤバイ発言はカットされているに違いない。
素といえば、クイズ番組で常識はずれの無知無学ぶりをウリモノにするタレントも増えている。それも今様の1つの「キャラ」というものなのだろうが、そういう風景を眺めていると、本音本位時代の劣化…みたいなフレーズが浮かぶ。ひと頃話題になった沢尻エリカ嬢の記者会見、などもその象徴的な現象といえるだろう。
本音とワガママを履き違えないでいただきたい。ベールに包まれていたスター、の時代がなつかしい。
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