連載コーナー
本音のエッセイ

2007年6月掲載

ペット依存症

香山 リカさん/精神科医・帝塚山学院大学人間文化学部人間学科教授

香山 リカさん/精神科医・帝塚山学院大学人間文化学部人間学科教授
1960年7月1日北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒。学生時代より雑誌などに寄稿。その後も臨床経験を生かして、新聞、雑誌で社会批評、文化批評、書評なども手がけ、現代人の“心の病”について洞察を続けている。専門は精神病理学だが、テレビゲームなどのサブカルチャーにも関心を持つ。主な著作に「「悩み」の正体」(岩波新書)、「もう『いい人』にならなくていい!」(海竜社)などがある。

世はペットブーム。特に外に連れ出すのが簡単な犬のためにはいろいろな施設も作られ、「ワンちゃんと泊まれるホテル」はもちろん、犬のためのジム、幼稚園などもあるという。ブランドものの高価な首輪やコートなども売り出され、ペット用のクローゼットを自宅に作る人もいるのだとか。ここまでくると、立派なペット依存症だ。

かく言う私も、自宅で犬1匹とネコ3匹を飼っている。子どもがいないこともあり、ついペットたちに子どもにするように話しかけたり、という典型的なペット依存症。とはいえ、「本当にウチの子たちはかわいいな」と思いながらも、「こんな私、ちょっとおかしいんじゃないか」と疑問を持つだけの客観性は忘れていないつもり。

いたいけな動物はもちろん、守り慈しむべき存在であることはたしかだが、世の中には愛情や援助を求めている人間もたくさんいる。精神科の診察室で仕事をしていると、成果主義、競争主義がはびこる今、病や障害を持つ人に対する世間の態度がどんどん厳しくなっているのをひしひしと感じる。「病気になったのも自己責任なのだから、あとは自分でなんとかして」という態度だ。

おそらく、そうやって弱っている人、競争に負けた人を切り捨てようとする人たちの中にも、家に帰ればペットの犬やネコにそれこそ猫なで声で「ヨチヨチ。私のことを本当に分かってくれるのはおまえだけだ」などと語りかけているペット依存症者がいるだろう。実は、私の知り合いにもそういう経営者がいる。その優しさをどうして少しでもほかの人間に向けられないのか、と聞きたくなってしまう。

自分を省みてもそうなのだが、「人には厳しく、ペットには優しく」という心境になっているときは、たいていは自分も自信を失い、人を信頼できなくなっているときだ。だからつい、人には心を閉ざして、視線のすべてがもの言わぬペットに向かってしまっているのだ。

愛らしい犬やネコに心を癒されること自体は、悪いことではない。私だってそうやって日々、彼らから慰めや励ましを得ている。でも、ペットで元気を回復したら、次は社会や人間にも目を向けて、みんながより良く生きられるために力を尽くしたい。「その方が、あなたのワンちゃんもきっと喜ぶよ」などと言ってしまう私は、やっぱりペット依存症だろうか。

(無断転載禁ず)

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