連載コーナー
本音のエッセイ

2006年7月掲載

子どもの前では無知なボク

山本 晋也さん/映画監督

山本 晋也さん/映画監督
1965年インデペンデント系日本シネマで監督デビュー。にっかつロマンポルノ作品、独立系、5社系での作品群は250本にも及ぶ。「トゥナイト」(テレビ朝日系)で社会状況をレポート。人気を博す。映画代表作品は、「未亡人下宿シリーズ」(にっかつ)、「下落合焼きとりムービー」(東映)など。主な著書に「日本ほとんどビョーキ症候群」(日本文芸社)、「おどろきモモノ木、日本の記」(リクルート出版)などがある。

“成功したかったら、質問しなさい”

誰だったか忘れたけど、名言だ。

小中学生ぐらいを相手の番組のこと。うっかりこんなことを言ったら大変だった。

「お湯はなんで温かくて、水はなんで冷たいんですか?」

「空は、なんで青いんですか。スペース・シャトルから見ると空は黒いじゃないですか」

答えに困る、その態度を観察している。なんとなく知っているけど、簡単に答えられない自分の無能さを思い知ったりする。

こんなのも困った。

「シンデレラ物語」で、12時の鐘が鳴ると、すべての魔法が解ける。馬車は、かぼちゃ、御者はネズミ、いや馬だったかetc.である。

「じゃ、なんでガラスの靴だけ魔法が解けないんですか?」

鋭い、参った。

小学3年生くらいの女の子からだった。困った。そこで神サマを持ち出した。

“シンデレラのあまりの不幸を、神サマが見ておられて…”。ウーッ、苦しい。

大人は神サマを使えば、なんとかなる。

このように、子どもの前で大人は無知、無能だ。少なくともボクごときは…。

「愛」なんて、もっと大変である。

「愛ってなんですか?」

真剣な瞳で中学生の女子に尋ねられた。さぁ、大変だと考えていたところ、

「男のヒトって、女の子をスキになると、どうなるんですか?」

と攻める攻める。さらに困った。

良かった。瞬間「男はつらいよ」を思った。

確か、16作「葛飾立志篇」だ。助かるッ。

小林桂樹さん扮する考古学の大博士が渥美清の寅さんに同じような質問。

寅さんいわく、

「いいかい、あーいい女だなァ、と思う。その次は、話してみてえなァと思う。話してるうちに今度は、いつまでもそうしていてぇなァ、と思う。その人の傍にいるだけで、何かこう、気持ちがやわらかくなって、あーこの人を幸せにしてあげたいなァ、と思う。この人の幸せのためなら、俺はどうなったっていい、死んだっていい、とそんな風に思えるようになる、それが愛」。

女の子はコクンとうなづいた。

ほんと、映画がなかったら、ボクなんか、単なるアホのジジイに過ぎない。

(無断転載禁ず)

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