連載コーナー
本音のエッセイ

2006年6月掲載

世の中には親切な人がたくさんいる!

有賀 さつきさん/アナウンサー

有賀 さつきさん/アナウンサー
NHKK教育テレビ「手話ニュース」ナレーター。フジテレビ「アナウンストレーニング特別講座」講師。フェリス女学院大学「アナウンス・スピーチ講座」講師。1988年フジテレビジョンに入社。「プロ野球ニュース」など多くの番組を担当。1992年フリーランスに転向。「ミュージックステーション」「料理バンザイ!」など司会業を中心に、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、イベントなどで幅広く活動。近著に「会話美人のレッスン35(PHP研究所)」

娘が1才のときのことだ。病院の帰りにスーパーに寄り、まとめ買いをしたら、とても重い荷物になってしまった。

子どもが病気になると、買い物にも出られない。そこで、ここぞとばかり、たくさん買い込んだら、手がひきちぎれそう。娘の徹夜の看病でふらふらだったこともあり、つい交差点でタクシーを止めてしまった。

買い物袋をトランクに入れ、さあ、次はベビーカー。入れようと思ったら、片手で赤ちゃんを抱えているため、うまくベビーカーが持ち上がらない。もう1回、エイッと持ち上げてみる。上がらない!もう1回。もう嫌だ。できない。

育児を始めてから、こんなささいなことにいつも苦労する。時間がかなり経過しているのに、ドライバーさんが外へ出てきてくださらない。

「このタクシー、乗るのやめちゃおうかな…」と思ったそのとき、ものすごい勢いで見知らぬ女性が「私、やりますよ!」と駆け寄ってきた。ふわふわとした巻き髪で、エレガントな30代くらいの仕事を持つ女性のよう。彼女は、私のベビーカーをむんずと持ち上げ、言った。

「いいの、いいの、気にしないで。私にも小さな子どもがいるから分かるの」。

そう言って、彼女はあっさりトランクに入れると、あっという間に消え去った。お礼をろくに言う間もなかった私は、胸がジンと熱くなった。

子どもができてから、人の温かさに触れる機会が増えたように思う。

先日、デパートの地下で買い物をしていたときだ。物産展があって、はちみつを買おうと並んでいた。前のお客さんが長くかかっていたので、置いてあったはちみつの飴を娘に与えたら、運悪く飲み込んで喉につかえてしまった。 娘は青冷め、言葉も出ない。どうしよう!しまった。3才の子どもに飴なんか与えるんじゃなかった。これでは「誤飲」と同じじゃないか。私は持っていた荷物を床に放り投げ、何を言ったか覚えていないが大きな声をあげた。

周りのお客さんがどうした、どうしたと騒ぎ出した。それを見た向かいの燻製卵を売っていたおばさんが、駆け寄ってきた。娘をうつぶせで持ち上げた私は、救急医療の本に書いてあったのを思い出し、背中をバンバン叩く。やり方が本当に正しいかどうかなんて、素人の私に分かりゃしない。お願いだから、飴を吐いて!しかし、そんな不安はすぐかき消された。

「そう!それでいいの。そう!そうよ。あ、出た~!」とおばさんの声。

飴が口から飛び出したにもかかわらず、夢中でバンバン背中を打ち続けた私を制止し、「今、飲み物持ってくるからもう大丈夫よ」とうなだれる娘にとても優しくしてくれた。

「良かったわね。危ないわ。私も娘がいるから分かるけど、小学生になるまでは飴を与えないほうがいいわよ。固形物は今はだめ、飲み物をたくさん飲みましょう。もっと飲む?持ってきてあげるわね」とアドヴァイスしてくれた。

世の中には親切な人がたくさんいる!育児はとても大変だが、お蔭で味わったことのないような幸せを感じることができた。

この恩返しは、私が見知らぬ人にすればいい。世の中、捨てたものじゃない。

(無断転載禁ず)

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