英語なんて喋れない!
- 梅田 みかさん/作家・脚本家
- 東京にて、作家・故梅田晴夫の長女として生まれる。慶応義塾大学文学部卒業。主な著書に、小説『別れの十二か月』、エッセイ『愛人の掟』シリーズ、『思いどおりの恋をする80の方法』(すべて角川文庫)など。脚本家としても、『お水の花道』(フジテレビ系)、『よい子の味方』(日本テレビ系)など多くの話題作を手がけている。
今年の春、7歳の娘と一緒にフランスに旅行した。エクサンプロヴァンスに留学している親友を訪ねての、はじめてのふたり旅。
実は、わたしは外国語が大の苦手。喋れないとか、聞き取れないとかそういう問題以前に、外国人を目の前にしただけで萎縮してしまう。だから海外旅行をするときは、必ず語学力のある友人に引率してもらい、わたしはただニコニコしているだけ、というのが常だった。
ところが今回はそうはいかない。旅の途中に何か問題が起きたら、たとえ言葉が通じなくても、娘を守れるのはわたしだけなのだ!
鬼気迫り、わたしは十数年ぶりに英会話(と、仏会話)の本を開いた。ああ、いやだ! 見たくもない! でも、何もしないよりはましだろう!
ドキドキ、ハラハラを繰り返しながら、何とか無事ふたり旅を終えたら、ほんの少しだけ自信がついていた。これでもし英語が喋れたら、娘とふたりで気楽に、ふらりと外国へ、なんて楽しいだろうなあ。そんな夢物語が頭をよぎり、わたしはついふらふらと、近所の英会話学校に足を踏み入れてしまった。
娘も通わせることによって、自分も何とか続けようという魂胆で、親子で入会した。ずしりと重いテキストを抱えて歩く帰り道、わたしの本音はこうだった。
「ああいやだ! 今さら英語を習うなんて! 喋れるようになるわけないのに! ああバカなことをした…」
沈んだため息をつくわたしの横で、娘は楽しみ、楽しみ、とスキップしている。
「どうしてそんなに楽しみなの?」と聞くと、一体どうしてそんなことを聞くの? という顔で答えた。
「だって、外国の人と英語ペラペラで話せるところを想像すると、わくわくする!」。
娘の言葉に、はっとした。わたしは「一生、英語なんて喋れない」と自分で決め付けていたのだ。英語が喋れたらいいな、とは思っても、自分が英語ペラペラなところなんて想像したことがなかった。それじゃ、駅前留学だろうが、本物の留学だろうが、何をしたって駄目なのだ。
よし、わたしも娘を見習って、英語ペラペラな自分を想像して、わくわくしながら通ってみよう。でも…やっぱり本音では、まだ通いたくない…やりたくない…! 英語なんて喋れない!
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