ビールはマイペースで飲むのが一番
- 小倉 久寛さん/俳優
- 1954年、三重県生まれ。劇団スーパーエキセントリック・シアター創立メンバー。ドラマ、バラエティ、映画、舞台、ナレーション、CMなど幅広く活躍中。現在、テレビ朝日「いまどきごはん」、テレビ東京「ペット大集合ポチたま」等のナレーション、10月クール テレビ朝日 木曜ミステリーや10月1日公開東宝「蝉しぐれ」にも出演。
いやあ暑いです。夏だから暑いのは当たり前。でも夏は嫌いではない。いや好きかも。なんといってもビールがうまい。私はビールが大好きです。家に帰ったら何はさておきまずビール。夕方の生ぬるい風に当たりながら飲むビールはこたえられない。
私は30才位のときにやっとビールが美味しいと思った。それまでも飲んではいたが、勢いだけで飲んでいたような気がする。若さにまかせて毎晩のように飲み歩いた。飲んだ帰り寝てしまい山手線を1周してしまったことは何度もあった。合計で何十周もしていると思う。京浜東北線も何往復もした。その沿線に住んでいないのに。月のきれいな夜、酔いをさますのに丁度良いと思ったのかどうか、ブロック塀の上に仰向けに寝たまでは良いがそのまま眠ってしまい寝返りをうって顔から地面に落ちたこともある。その傷は今も残っています。酒の上の失敗はきりがありません。
もちろん今は年のせいかそんなことは無くなりましたが、量は減ったもののビールはほぼ毎日飲みます。口当たりの良い小さめのグラスに冷た~いビールを多からず少なからず適量の泡をたてながら注ぐ。次にグラスについた「このビール冷えてます!」という証の細かい水滴を見て、口に「これからビールを飲むぞ!」という用意をさせ、そして飲む。注ぎ足すのは、そのビールを飲み干してから。私はこの飲み方が好きだ。これでなくてはいけないと思う。
それなのにそのペースを乱す輩がいる。1口飲むとまだそのグラスにビールが残っているのに横から注いでくる。たぶんよく気がつき親切なのだと思う。でも学生時代のクラブで注がれたらすぐ飲む癖がついてしまっている私は、とりあえず飲む。残っているのにまた注ぐ。また飲む、また注ぐ。これを繰り返しているうちに、泡はなくなりグラスのビールはなみなみと注がれたまま温まってしまう。もうこうなると私の思っているビールとは違うものになってしまう。ビールはマイペースで飲みたいものだ。
ここまで言っておきながら、注がれたときに「いや、手酌で!」と断われる相手ならいいのだが、偉い人にビールを注がれると、まだグラスにビールが残っているにもかかわらず、両手でグラスを差し出し、頭を下げ「ありがとうございます!」と言ってしまう自分が悲しい。
いつまでたってもビールの味はほろ苦い。
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