「運転しない」のは私の信条。空気の質について真剣に考えるときです
- 南 美希子さん/キャスター・エッセイスト
- 1956年、東京生まれ。聖心女子大学在学中、テレビ朝日アナウンサー試験に合格し入局。86年独立後、個人事務所開設。 “OH!エルくらぶ"“EXテレビ"などのキャスターを務める。現在、NTV(日本テレビ系)ザ・ワイドのコメンテーターとして出演中。講演・シンポジウムのコーディネーターやエッセイストとして幅広く活躍。日経新聞 夕刊「育児の快楽」にて連載中。最新刊『40才からの子育て』(光文社)など著書多数。
私は、車の運転免許証を持っていない。所持して当たり前のこの時代にあって、そのことを告げると誰もが目を丸くして驚く。
大学在学中にアナウンサー試験に合格し、予定より早く社会人になったため、免許取得の機を逸してしまった。というのが、その大きな理由である。近年、都心に住むようになって、タクシーでの移動の方が遥かに手軽で、経済的であるという理由も加わった。また、職業柄、自らの運転で事故を起こしてしまったときのことを考えると、持たない利点の方がさらに大きくなる。
が、実は前述のような物理的理由のみならず、自ら自動車を持たず、運転しないことは、もはや私の確固たる信条になった感がある。それは殊に車の排ガスのもたらす深刻な悪影響に思いを寄せるようになったからである。勿論、自宅には夫の運転する自家用車があるし、仕事の移動にはタクシーを利用している。車の恩恵には充分浴しているクチなので大きなことは言えないが、せめて自分でハンドルを握らないことが、車社会に対するオブジェクションになっているのだ。
東京など4都県で車の排ガス規制が実施されて以来、都会の空気がきれいになったという声が、そこここで聞かれるようになった。先日も新聞で「東京から富士山が臨めるようになり、清浄な空気を求めての旅行にもあまり価値を見い出せなくなった」と書いたある随筆家の文章に触れ大いに違和感を覚えた。未だ、沿道を歩くと独特のオイル臭に咳込み、往来の激しい交差点の大気が、排ガスで薄紫色に染まっているのがはっきり肉眼で分かる。2009年から国も、さらに厳しいディーゼル車の排ガス規制に乗り出すということだが、何よりも車の絶対数が増える一方なのだから、そちらの問題にも手をつけないと、きれいな空気を取り戻すことは難しいように思う。何よりも心配なのは、子どものぜんそく患者の数が、相も変わらず激増していることなのである。実現不可能なことを承知での提案だが、いっそ、ヴェネチア並みの水路交通に切り替えてみたらどうだろう。それが無理なら、車は専用地下道のみの走行とする。こうすれば、歩行者の交通事故の問題も解消される。いずれにせよ、健康の源である空気の質について、真剣に考えるときであるのは、紛れもない事実だと思う。
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