連載コーナー
本音のエッセイ

2005年5月掲載

たったの60才 年齢が持つイメージで呼ぶのはやめて

藤田 弓子さん/女優

藤田 弓子さん/女優
1945年、東京生まれ。趣味は、俳句・絵・釣り・ゴルフ・お酒・旅・読書など。映画、1980年「泥の河」(小栗康平監督)、1985年「さびしんぼう」(大林宣彦監督)、2004年「ドラッグストア・ガール」(本木克英監督)など、多数出演。現在、YTV「遠くへ行きたい」、ABC 土曜ワイド劇場「新・赤かぶ検事奮闘記」、TX 女と愛とミステリー「監察医・篠宮葉月 死体は語る」に出演中。

“老女死す"少し以前まで新聞の三面記事によくあった見出しである。見る度に母は怒っていた。「冗談じゃないわ、60代で老女だなんて」と。さすがに最近では、何才の女性が云々…と配慮されるようになった。

テレビのリポーターが中年以上の女性を「お母さん、お母さん」と呼ぶのも気になる。多分「あなたのお母さんじゃありませんよ」と思いながらもにっこり笑ってインタビューに答えてくださっているのだ。

実際旅番組などで知らない方に声をかけるのは難しい。「おじさん、おばさん」では失礼だし「おじいさん、おばあさん」なんて言ったらそっぽを向かれてしまうだろう。

「すみません」も謝っているようで本来はおかしい。先ず「こんにちは」とか「おはようございます」と呼び止めて、自己紹介をしてから相手のお名前を聞く。以後お名前で話しかけるのが正しい方法かもしれない。しかし画面のテンポはひどく悪くなるだろう。

フランスのマドモアゼルとマダムは、素敵な呼び方だ。少し年配だからとマダムと呼ばれても、敬う気持ちとそこはかとない色艶を感じとれるので、むしろうれしくなってしまう。

いっそ“おもいっきりテレビ”のみのもんたさんのように、誰でも「お嬢さん」と呼んでしまうのもいいかもしれない。「どこにお嬢さんがいるのよ」と、言われた方も思わず笑ってしまう。

もうすぐ60才になろうという年令になってつくづく思う「たったの60才」と。そりゃあ細胞はへたりきっているから、鏡を見るたびに溜息をつかなければならない。

髪は抜ける歯は抜ける。しみができるシワができる。むくむ、くすむ、かさつく、だぼつく、ひからびる。見えない体の内部などはどれだけへたっているかと恐ろしくなる。

この細胞を上手に使えば人間は120才迄生きられるそうだ。しかし、ある著名な医科大学教授は「長生きする人は、当りクジを握りしめて生まれてきたんですよ」とおっしゃる。当りかスカかは死ぬ時にならなければ分からないのだ。

私はまだまだ成長しきれていないし、これから育自しなければと切実に思っている。だから「たったの」が実感。

人には各々年の重ね方がある。だから年令がもつイメージで呼ぶのはやめましょう。夫婦2人っきりしかいないのに、夫が妻を「お母さん」と呼ぶ。「私はあなたなんか産んだ覚えはありません、名前で呼んでちょうだい」とはっきりお断りすべきです。

(無断転載禁ず)

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