連載コーナー
本音のエッセイ

2005年4月掲載

フジサンケイグループとライブドア問題について

崔 洋一さん/映画監督

崔 洋一さん/映画監督
1949年長野県生まれ。高校卒業後、照明助手として映画界に入り、大島渚監督や村川透監督などの助監督を経て、81年「プロハンター」で監督デビューする。83年「十階のモスキート」でヴェネチア国際映画祭に出品され話題となる。93年「月はどっちに出ている」では53 にわたる映画賞を受賞。96年にソウルの延世大学に留学し、韓国の近代映画史を研究する。近年では、「刑務所の中」(02年)、「クイール」、「血と骨」(04年)などの作品が話題を呼んでいる。

本号が出るころにはどうなっているのやら、見当もつかないが、巷を賑やかすフジサンケイグループ対ライブドアの行く末が気にかかる。僕は、一貫して思っているし、言ってもきたのだが、ライブドアの堀江貴文さんは基本的には間違ったことをしているのではない、ということ。へぇーと、らしからぬ発言とか疑問ともつかない声が聞こえてきそうだが、やっぱり、彼の言う通り、原則はM&Aを避けたければ株を上場しないことだ。株とは本質的には、投機の対象ではない。もちろん、上場会社の株を保有している機関や投資家たちが、その会社の資本構成をなし、企業の業績を支え、以て、利益を上げさせて配当を受けるという原則を守っている、とは言えないのが、株取引の現状だ。だから、と言って、彼の言動、まあ、それは多分にテレビ媒体を通じて知るのだが、それが例え気に入らないとしても、よしんば、容姿や態度が嫌いでも、感情や気分が規定しては、いけない、ということだろう。

したがって、東京地裁の判断は素直に受けとめられた。が、ここから先は少し、心情と本音。

そもそも、ニッポン放送の株を買い占めたのは、フジサンケイグループの支配権が狙いであるのが一目瞭然。にも関わらず世間とか、日本の政官財の偉い人たちがアンチ堀江と外資脅威論の合唱を始めたら、取ってつけたように、放送メディアとネットメディアの結合のため、だとか、将来のメディアの変化を先取りするための、メディアITファイナンシャルを目指す、とかの主張をするのだが、僕に言わせれば、それは詭弁。どうして、大きな借金をして投機的な経済活動をしている、と正直に言わないのだ。それが、この法治国家において認められている経済活動だ、と言わないのだ。お金を儲けることは悪いことではない。しかし、その対象が、どのような存在であるのか、また、その行為が社会的にはどのような意味を持つのかしっかりと意識しなければならないだろう。一般的な企業買収とは違う、という認識が果たして、堀江貴文さんにはあったのだろうか。

放送メディアとはこの社会でどのような意義、役割を持つのか考えてみれば良い。それは極端に言えば木鐸である。ときとして、強大な国家やそれを支える社会を冷静に批評、批判すべき立場がなければならないだろう。もちろん、辛口のニュースと論評だけ流していれば事足りる、などと傲慢になることを求めているのではない。公共放送NHKの現実を見れば、テレビの悪しきおごりが露呈され、受信料不払いの視聴者が減らない状況を見ても、それは、テレビへの不信と抵抗として捉えなければならないのは残念ながら現実。

片や民放はスポンサーが存在しなければその経営はなりたたない。したがって、視聴率を取れる番組を数多く生産するのは命題だろう。だから、“楽しくなければテレビじゃない”とばかりに、娯楽と消費の一対を宿命的に担うことになる。まあ、早い話が理念や旗印とは別個に利益のためには、何でも有り、で突っ走ってきたのもテレビの歴史の側面。冷静に考えてみれば、それでも、テレビが与え続ける圧倒的な情報は人々や社会へ影響力を持つ。それは、時代の鏡であり、また、時代の先端という空気を作ってきた。消費文明の司令塔として計り知れない程の力を持ってしまった、と自覚がなければ“テレビじゃない”とは多分、自己分析をしなかったのだろう。これが守旧という老いに知らず知らずに侵されることになる。そこに狙いを付けた今どきの若造が出てきたとしても、これは何の不思議もないことだ。

あれやこれやと水面下のこととか、外資の手先とか取りざたされているが、きっとそんな風評はどこ吹く風なのだろう。ライブドアのホームページを見ればそれはよく理解できる。主張は簡単で明確なのだが、それを紡ぐ主体性、自身の活動の指針と客観的な位置づけがさっぱり見えてこない。ときとして空ろな風情さえ見せる。メディアの雄を乗っ取ろう、としている自らの欲望を世間に理解させないで何の説得力を持てるのだろう。それも、小さいながらも無限に広がる可能性としての自らのメディアの中にあってだ。
メディアを殺す、と啖呵を切ったのなら、そのメディアに殺される、可能性があると思いませんか、堀江さん。

(無断転載禁ず)

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