地産地消の大切さ
- 田崎 真也さん/ソムリエ
- 1995年5月第8回世界最優秀ソムリエコンクール優勝。その後1997年より『ワインは、憶えてから楽しむものではなく、楽しんでから憶えるもの』をコンセプトに田崎真也ワインサロンを主宰、また、ソムリエ育成のために若手ソムリエコンクールやセミナーを主催するなどの活動を行っている。ワインの通信販売も3年の実績をもち、日常ワインを皆さまにご提供するとともにディナーイベントでは食事にあわせたワインなどをセレクトしている。
今年の9月、東京の港区にある愛宕山の頂上、愛宕神社の境内に、「T(てぃ)」と呼ぶ飲食店をオープンさせた。TはTasakiの頭文字ではなく、TokyoのTである。
何を意味するのかというと、この標高26mの愛宕山は、高いビルのない昔、この辺りで最も高い場所であったところから、この上にNHK愛宕局が創設された。現在は放送博物館となっているが、大正14年にNHKラジオの電波が初めてここから東京に発信された場所であることを知り、東京都産の食材を使い、東京都で造られた器やグラスを探し、東京都産の酒を集めて、東京の食の情報発信スペース的飲食店であるといったコンセプトを考え、「T」とした。
東京都産の食材というと、まず、「そんなのあるの?」というような顔をするか、「それっておいしいの?」と思う人が大半である。それか、「あっ、江戸前ネ!」と知ったような返事をする人もいる。でも江戸前(東京湾)の魚はその多くが神奈川県や千葉県に水揚げされるので、正確な意味では東京都産ではない。
東京都に水揚げされる東京湾の魚もあるが、伊豆七島や小笠原諸島産の魚介類も東京都産とすぐに頭にうかぶ人は意外と少ない。さらに、西東京市や八王子、多摩などでは実に多種の野菜が栽培されており、米やお茶などもある。また、しょう油、みそ、みりんなどの調味料から、わさび、唐辛子、ゆずこしょうまで造っている。
酒も豊富で、現在12軒の清酒メーカーと、11軒が焼酎を造り、地ビールもけっこうあるので、それらバリエーションからもいろいろと楽しめる。
そして、肝心な品質はというと、これまたかなりレベルが高い。魚は毎日産地から直送されるし、野菜も採れたてが運ばれることもあって、どれも香りや風味がはっきりとしている。
この「T」を始めようと思った理由はもうひとつある。今、あちらこちらで、地産地消の重要性、スローフードの重要性、自給率を高くしよう、などの話がよくでているし、僕自身も地方へ行って講演のテーマにもしている。
にもかかわらず、人口の最も多い都道府県の東京都では、ほとんど誰も地産地消を掲げる人がいないことを感じ、そういえば、東京にある居酒屋で、東京産の酒を誇りを持って客にすすめる居酒屋がどれだけあるだろうかと考え、まず自分で実践することが大切だと知った。
全国に地産地消の考え方が広がるきっかけを、今の愛宕山から発信する手伝いができたらと思う。
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