人に頼るのはよくない!?
- 有川 真由美さん/文筆家
- 大学卒業後、50以上の職業経験から働く人へのアドバイスを執筆。約50カ国を巡り旅エッセイも手がける。『一緒にいると楽しい人、疲れる人』『いつも機嫌がいい人の小さな習慣』『頼るのがうまい人がやっていること』など著書多数。
頼ることが苦手だ。「自分のことは自分で」「人に迷惑をかけてはいけない」などと教わったし、「できません」「困っています」と弱みを見せるのは、恥だと思っていた。だから、多くの仕事を1人で抱え込み、寝る間も惜しんで働いたために体を壊してしまった。
手足が不自由になり身体障がい者手帳をもつようになっても、頼ることに気兼ねがあった。見るに見かねて手を貸してくれる人たちに、私は「すみません」を1日中繰り返した。
そんな私が頼ることを覚えようと思ったのは、1人旅や海外生活など、どうしてもやりたいことを実現するためには「人に頼らなければムリ」と観念したからだ。「ぜんぶ1人でできる」というのは、傲慢な考え。私たちは「ぜんぶ1人でできるはずがない」という前提で生きなければ目的を達せず潰れてしまう。
複雑化する社会のなかで、だれしも自分1人では手に負えない課題は出てくる。まわりを見渡すと、ワンオペ育児や介護、会社や家庭での孤立、1人暮らしの高齢者など「頼りたくても頼れない」人が多いではないか。
頼るのに抵抗があるとき、私は「頼ることは相手のためでも、社会のためでもある」と自分に言い聞かせる。
田舎暮らしでお世話になった高齢者にこう言われたことがあった。
「人間のいちばんの喜びは、だれかに喜んでもらえること。いちばん寂しいのはだれからも必要とされないこと」
私たちは人になにかをしてもらう側が得をして、してあげる側は損をしていると考えがちだが、ほんとうは与える喜びのほうが大きく深い。親切をして「喜んでもらえてよかった」と満足するときの笑顔は、誇りに満ちている。
私はお願いできることは、できるだけお願いすることにしている。楽になるだけでなく、心を開いて甘えることで仲良くなれるとわかったから。相手の力をリスペクトし信頼関係が生まれる。「困ったときはお互いさま」の温かい空気ができていく。
やってもらったら思いっきり喜び、感謝すること、自分のできることで貢献すること、断られたときの次の一手を考えておくのも頼みやすくなるコツだ。
本当は自信がなくてプライドが高い人ほど、頼ることができない。が、どんな人でもつまずき、道を間違うことはある。ほんとうの自立とは自分で立つことではなく、自分の道を歩くために「たくさんの人に支えてもらうこと」なのだ。
個人の自由な発想や才能が尊重される風の時代、若者も中高年も高齢者も生き抜くために強くなる必要はない。もっとも必要で身につけるべきは「頼るスキル」だと思っている。
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