8時間耐久展示解説に挑んで~対話で育む地域の魅力~

- 田辺 智隆/戸隠(とがくし)地質化石博物館 研究員
- 戸隠地質化石博物館
〒381‐4104
長野市戸隠栃原3400
026‐252‐2228
http://www.tgk.janis.or.jp/~togakushi-museum/index.html
博物館との出合い
千葉県市川市で育った私は、小学校5年生の時に友人たちと東京都上野の国立科学博物館に出かけた。市川から上野まではバスが通っており、小学生運賃は片道30円、入館料は40円。100円あれば1日中楽しめた時代だった。小遣いが月500円で、あんパン30円、マンガ雑誌90円の時代。恐竜アロサウルスの全身骨格がホールに展示され、化石や動植物標本が数多く並び、胸を躍らせたことを今でも鮮明に覚えている。おもしろくて、とても楽しい場所だった。
山奥の博物館の学芸員となる
理科の先生になろうと信州大学へ進学した私は、長野県信濃町で行われている野尻湖発掘に参加し、約4万~3万年前の地層からナウマンゾウの化石などが産出する現場に立ち会うことができた。これに感激し、地質学や古生物学にのめりこんでいった。
野尻湖博物館の開館を手伝う中で、学芸員になりたいと思い、信濃町に隣接する戸隠村に地質を担当する学芸員として勤めることになった。
そこは1949年建築の木造校舎を利用した小さな博物館で、学芸員は私一人、来館者は年間3000人ほど。ここで何をすればよいのか、試行錯誤を繰り返しながら活動を始めた。
地域の良さを認識するなかで…
まず、自分が勤める地域を見て回ることから始めた。戸隠山・飯縄(いいづな)山の山麓に位置する美しい景観が広がる高原で、天の岩戸伝説や山岳信仰の里でもある。戸隠山は切り立った絶壁が並ぶ険しい山容で、その地層からはホタテガイなどの海にすむ動物の化石が産出する。約500万年前の海底が隆起してできた山なのだ。一方の飯縄山は、なだらかな山麓が広がり、スキー場もある。これは、約40万年前から陸上に噴火した第四紀火山で、地下水を蓄える山でもある。この対照的な山の生い立ちが、他にはない美しい景観を作り出し、「妙高戸隠連山国立公園」にも指定されている。
また戸隠には、平安時代以降の人々の暮らしの痕跡が多く残っている。戸隠村時代には、戦国時代の城跡の発掘、神社の修繕や御神木の治療、石造文化財の調査等もこなしてきた。そんな中、自然と人々の暮らしが密接にかかわっていることを学ぶことができた。
戸隠の気候やおいしい湧水が、名産の「戸隠そば」を支えているのもその一例。化石が採れることだけが地域の魅力ではない。戸隠の自然そのものを作り上げてきた大地の歴史や人々の営みとのつながりこそが地域の魅力なのだ、と気が付いたのである。
その魅力を伝えるには、解説しかない…
海だった約500万年前から標高1904mの戸隠山ができるまでの過程や、その後の飯縄山の噴火によってなだらかな高原状の地形が形成されたことを、分かりやすく楽しく伝えることはとても難しい。さらに人々の暮らしとのつながりまでを紹介するには、べらぼうな量の文章が必要になる。それは500ページを超える1冊の本を読むことと同じであろう。強い意欲と時間を必要とするが、会話を通して伝えるのであればそこは違ってくるのではないか、と考えた。それは、小さな博物館に勤める学芸員としての意地だったかもしれない。
約30年前、バイクレースの名称をもじって「8時間耐久展示解説」を設定してみたが、案の定、笑いのネタにしかならなかった。2008年、統合に伴い、現在の博物館への移転・リニューアルが行われたが、その際にも「解説すること」を意識して展示を作成した。
初めて耐久コースへの挑戦者が現れたのは2016年11月23日のこと。乗り切れるかどうか心配だったが、来館者との会話が弾み、終了後は安堵感と達成感、心地よい疲労感が味わえた。落語が好きだったことも幸いし、その後10年間で20人以上が達成する博物館の名物?コースとなっている。興味のある方は、事前に電話で日程を調整のうえ、ぜひ挑戦してほしい。
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