食の博物館「ご当地スーパー」を訪ねて~地域の物語を探す旅~

- 菅原 佳己/スーパーマーケット研究家
- 菅原佳己公式ホームページ
https://www.gotouchisuper.online/
全国ご当地スーパー協会
公式ホームページ
https://www.go-to-chi-supermarkets.com/
『日本ご当地スーパー大全(タツミムック)』(辰巳出版)ほか著書多数
食文化の交差点「スーパーマーケット」
普段、あなたが何気なく買い物をしている近所のスーパー。実は見方を変えれば、地域の文化と歴史がギュウギュウに詰まった、「食の博物館」といえるかもしれません。
各地で見つけた地域の食や地元発祥のご当地スーパーの魅力を広く一般に知っていただきたいと、2012年から「スーパーマーケット研究家」の肩書で活動してきました。著書や新聞・雑誌の連載、ウェブ記事の執筆、テレビやラジオなどのメディアを通して、カルチャーとしてのスーパーマーケットの側面を感じていただけるようになってきたのではないかと思っています。
「いつものお菓子」がない!という衝撃
ご当地スーパーと、自分が生まれ育った地域のスーパーの品ぞろえの違いに気がついたのは、35年前。東京出身の私が地方で暮らし始めたある日、無性に「しょうゆせんべい」が食べたくなって近くのスーパーへ向かいました。関東人の私にとって、丸くてしょうゆたっぷりの「草加せんべい」が慣れ親しんだ「せんべい」。ところが、棚をどれだけ探しても欲しい商品が見当たりません。代わりにそこを埋め尽くしていたのは、見たこともない大量の「エビせんべい」だったのです。
この小さな事件が、私をスーパーという迷宮へ誘う入り口となりました。
調べてみると、愛知県に面した三河湾には明治期からエビを加工する文化が根づいており、それが現在のエビせんべい産業へとつながっていることが分かりました。
かつてこの地域ではアカシャエビが大量に水揚げされていましたが、その多くは乾燥させて粉にし、肥料や飼料として利用されていました。そのエビ粉にでんぷんを混ぜて焼くという発想から、エビせんべいが生まれたのです。
今でも大小多数のエビせんべいメーカーが愛知県の海沿いに集中しているため、愛知のスーパーの棚は、エビせんべい天国なのです。
「せみ餃子」が教えてくれた、名前の裏側のドラマ
その後、各地のスーパーを巡る中で、私の人生を決定づける出会いがありました。関西では定番の「せみ餃子」です。その不思議な名前に惹かれ、なぜ「せみ」なのか、知りたくなりました。しかし、関西出身者にきいても「よく食べたけれど、理由は気にしたこともなかった」という人ばかり。ネット検索しても、当時はまだ一部の大企業がホームページを開設している程度の時代。何も答えは見つかりませんでした。そこで、メーカーに直接電話をかけて質問してみたのです。
京都弁の女性が親切に答えてくれました。「夏になるとセミがミンミン鳴きますやろ?うちの会社、珉珉(みんみん)食品いいますのや」(※記憶上の京都弁です)。
ただの餃子一つにも、こんなに面白い物語があるなんて! この感動を誰かに伝えたい、このまま埋もれさせてはいけない。その一心で筆を執ったことが、本を書くことになった原点です。
私が定義する「ご当地スーパー」の魅力
私が考える「ご当地スーパー」とは、単に地方にあるお店のことではありません。その土地の気候、風習、そして人々の日常食が何層にも積み重なってできた、いわば「食の博物館」です。
大手チェーンでは効率化のために省かれてしまうような、地域限定の調味料、独自の冠婚葬祭に欠かせない食材、そして「パケ買い」したくなるような愛らしいレトロなパッケージたち。そこには、地元のスーパーやメーカーが長年守り続けてきた努力と、それを支える住民の皆さんの深い愛情が詰まっています。棚の一つ一つが、その土地のアイデンティティーを語る貴重な資料なのです。
未来へ、地域の至宝をつないでいく
しかし今、こうした地域の個性が少しずつ姿を消そうとしています。効率化の波に押され、どこへ行っても同じ景色になってしまうのは、とても寂しいことです。
私は今まで全国のスーパーを歩き続け、スーパーマーケット研究家として、地域に根ざしたスーパーや地元食の魅力を掘り起こしてきました。しかし、個人の活動だけではできることに限界も感じていました。
そこで、より多くのスーパーや商品を効率よくPRできるようにするため、2019年に一般社団法人全国ご当地スーパー協会を設立。2022年から「ご当地スーパーグランプリ」を通じて、地域が誇るべき一品に光を当てる活動を進めています。
次の世代へ、先人たちによって守られ発展してきた日常食をつないでいきたい。ご当地スーパーは、単なる買い物の場ではなく、私たちが自分たちの文化を確認できる大切な場所です。
「今日はどんな新しい出会いがあるだろう」と、ワクワクしながらスーパーのドアを開ける。そんな楽しみを、もっと多くの人と分かち合いたい。日本中に眠っている地域の物語を掘り起こす私の旅は、これからもまだまだ終わりそうにありません。
(無断転載禁ず)
