お箸をまもる。心をつなぐ。 ~「いただきます」に込められた日本の精神~

- 山﨑 彰悟 さん/ヤマチク 代表取締役CEO
- 1989年生まれ。立命館大学法学部卒業後、大手IT企業に入社し銀行の顧客管理システムの開発に従事。2014年に株式会社ヤマチクに入社。19年にリリースした自社ブランドokaeriはNY ADC賞、Pentawardsなど国際的なデザイン賞を受賞。23年にファクトリーショップ「拝啓」を開業し、地元の新たな観光地化を目指す。24年7月現職に就任。
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「お箸をまもる」仕事
株式会社ヤマチクは熊本県南関町という田舎町で60年以上「竹の、箸だけ」を作り続けるお箸メーカーです。
「箸」という漢字の部首は「竹冠」。日本のお箸の歴史は、7世紀ごろに竹から始まったといわれています。
しかし今では安価な輸入品や、輸入木材、プラスチックで作られたお箸が主流になってしまいました。日本のお箸の文化的ルーツである竹のお箸は、食卓から姿を消しつつあります。日本の竹を用いてお箸を作るお箸メーカーは、ヤマチクだけになってしまいました。ヤマチクの廃業は、日本のお箸文化がひとつ消えることを意味します。だからこそヤマチクは、「お箸をまもる」ことを使命に掲げて日々竹のお箸を作っています。
たかが箸、されど箸。
ヤマチクの作る竹のお箸の特徴は大きく3つ。「軽さ」と「細い箸先」そして「丈夫さ」です。竹の特性を引き出したお箸です。
お箸はとてもシンプルな形状をしているため、フルオートメーションで作られていると思われがちです。でも実は30工程以上の手仕事によって作られています。
職人が1本ずつ丁寧に削り出し、塗装し、検品する。竹という天然素材から作る日用品でありながら、形状誤差0.2㎜以内、少しの塗装ムラや色飛び、竹のシミすらも見逃さない。そんな妥協しない姿勢が、有名ブランドや高級レストランでも高い評価を受けるお箸を生み出しています。ヤマチクのお箸を使ったお客さまは必ず「こんなに使い心地が違うのか」と驚かれます。
お箸屋さんが、映画を作るワケ
そんなヤマチクは2025年8月4日「箸の日」に、短編映画『いただきます』を発表しました。
「なぜお箸屋さんが映画?」と思われるかもしれません。日本では、食事のたびに「いただきます」と言いながら手を合わせます。料理を作った人、生産者の人、そしていただく命。あらゆるものへの感謝を込めて。だからこそ、「残さずキレイにいただく」ための軽くて繊細な竹のお箸が発達してきたと私は考えています。
しかし最近では「お金を払っているから”いただきます“は言う必要がない」という論調がネット記事やSNSなどで散見されます。「いただきます」に寄り添うお箸作りをしてきたヤマチクとしてこれには強い危機意識を感じました。
だからこそ「いただきます」を日本の未来に、そして世界につなぐために短編映画を制作しました。YouTubeにて配信を開始し、日本のみならず海外からも注目を浴び、現在では約10万回再生されています。
「心をつなぐ」お箸
お箸をまもる、心をつなぐ。これはヤマチクが掲げるMissionです。
ヤマチクは単にお箸を世界中に売るだけではなく、「いただきます」に込められた日本人独特の精神性も、世界に届ける使命があると考えています。
食べることは、生きること。人と自然、そしていのちをつなぐ行為です。ヤマチクのお箸は、その「はしわたし」であり続けたいと思っています。
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