経験に勝る武器はない
- 一条 もんこさん/スパイス料理研究家
- 1977年生まれ、新潟県出身。2010年にフランス料理とフレンチカレーの専門店に修行入り。12年にカレーに関するあらゆる企画を研究する「カレー研究会」を設立。18年、スパイス料理とカレーの料理教室『Spice Life』をオープン。スパイス1品に特化した料理を教えている。著書に『あなたの知らないレトルトカレーのアレンジレシピ』(扶桑社)他。Twitter・Instagramアカウント@monko1215
職業がカレー。そんな人が世の中に何人いるでしょうか。自分がカレーという料理で生きていこうと決めてから15年。現在収入のすべてがカレーで成り立っています。
私がカレーを好きになったのは小学校低学年。物心ついた頃から料理が好きで、暇さえあれば母と一緒に台所に立っていました。子どもながらにルーを一片鍋に入れるだけで、魔法のようにおいしい料理が作れるカレーに大変興味を持ちました。兼業農家だった我が家は、ほぼ自給自足生活。食材や生き物、自然とはいつの間にか共存していました。そんな環境もあって、食材は自分で野山に採りに行くような生活でした。
勉強も運動も人並み以下、取り柄のなかった自分の心の片隅には「いつか料理の仕事をしたい」という気持ちがありました。しかし店舗を経営するのではなく、生徒と直接交流して料理を教える料理教室の先生になりたいと思っていました。
初めて習いに行った料理教室で出会ったのが、著名な料理研究家の川上文代先生でした。そのご縁で先生のアシスタントをさせていただき、料理の基本やレシピの組み立て方などを学びました。教える立場としての技術や所作を会得したかったため、アシスタントの経験は今の仕事にとても役立っています。
その後、カレーがおいしいと有名なフレンチレストランに修行入りしました。3年後、本格的なスパイスの使い方を覚えるためにインド料理レストランに勤め、さらに3年後、イタリア料理のシェフとして現場を変え、技術を学びました。1つのジャンルだけでは狭い世界でしか料理を知ることができないので、とにかくたくさんの経験を身体に叩き込みたかったのです。
さまざまな飲食店で料理人として技術を身に付けた後、念願だったカレーの料理教室の開設をはじめ、今に至ります。遠回りと言われるかもしれませんが、自分が納得して自信をつけるまでにはこれだけの経験が必要でした。長い経験があることで教室だけでなく、レシピ開発やメニュープロデュース、飲食店向けのコンサルタント業務の依頼も頂くようになり、カレーでの活動に可能性が広がりました。現在はカレーによる地方創生やゴーストレストランの運営も行っています。
情報が溢れている現代、知識は簡単に得られますが、経験だけはお金では買えません。こんな世の中だからこそ経験を生かすという生き方も重要になってくるような気がしています。
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