ネガティブに感じる縁も一つの縁~被災体験がきっかけで始めた消しゴムはんこ~

- 麻田 弘潤 さん/僧侶・消しゴムはんこ作家
- 浄土真宗本願寺派 青木山 極楽寺住職。本願寺派布教使・特別法務員。僧侶と消しゴムはんこ作家の立場を生かし、仏教モチーフの消しゴムはんこをレクチャーしながら仏教思想を伝える「消しゴム仏はんこワークショップ」を開催。全国各地で消しゴムはんこを使った寺院の襖絵制作や参拝印の制作なども行っている。
https://gokurakuji.info/
Instagramアカウント:@kojunasada
中越地震での被災体験
私の住む新潟県小千谷市は2004年10月に発生した新潟県中越地震の被災地です。その時、私が住職を務める極楽寺では、老朽化した旧本堂を取り壊し、新本堂を完成させて被災の5カ月前にお祝いの法要を行ったばかりでした。
街は大きな被害を受けましたが、新築ということもあり本堂は無事で、そのまま町内の避難所になり皆さんのお役に立てることとなりました。しかし私はというと、この想定外の事態になす術もなく、19歳で僧侶になり8年間積み上げてきたスキルがまるで役に立たないという事実にただオロオロとするばかりでした。
今も全体的にそうなのですが、私たち僧侶の積み上げているものは平時の本堂の中でしか発揮できないものばかりということに気付かされ、「このままではいけない」とボランティアや極楽寺を会場とした復興イベントの主催など、いろいろなことにチャレンジするようになっていきました。
消しゴムはんことの出合い
その復興イベントではフリーマーケットをやっていたのですが、その中で「無地のバッグに消しゴムはんこを自由に押してオリジナルのエコバッグを持って帰る」という企画をスタッフみんなで考えたのが消しゴムはんことの出合いです。
とりあえずいくつか本を見ながら彫ってみたのですが、それを見た瞬間スタッフが「かわいい!」と褒めてくれました。この直球のリアクションが今までの人生にない感じがうれしくて、その後もイベント出店やワークショップなどを続けていくことになりました。
袈裟(けさ)を身につけ消しゴムはんこを彫るように
一方、災害ボランティア活動も継続していて2011年に発生した東日本大震災の際も宮城県に入り活動を行っていたのですが、ある時仮設住宅の集会所で被災者に消しゴムはんこを作ってほしいとの依頼を受けました。
すぐにできるものでもないので急いではんこを彫っていると次第に人が集まりだし、皆さん作業行程を見ながらダラダラと私との会話を楽しんでくれていました。するとその中の1人が周りの人もびっくりするような被災当時の経験談を話し始めました。私はただ消しゴムを彫っていただけなのに、誰も知らなかったようなお話をしてくださったことに衝撃を受けました。
今までは消しゴムはんこを作ることを目的にしていたけれども、作る過程のコミュニケーション力が異様に高いツールなのではないかと気づいた私は、僧侶の立場として袈裟を身につけ、仏像などの仏教モチーフの消しゴムはんこ作りを楽しみながら法話も聞くことができる「消しゴム仏はんこワークショップ」を2012年から全国各地のお寺を会場に開催するようになりました。今では全国150カ所以上のお寺でワークショップを行い、個展や書籍出版など、想像もしていなかった経験をさせてもらっています。
異質を組み合わせる楽しさ
僧侶と消しゴムはんこというとまったくイメージがかみ合わない存在です。しかし、相容れないと思いこんでいるものを組み合わせるだけで、新しい展開や発見が生まれます。
消しゴム仏はんこワークショップの中でも、はんこ作りを楽しみながらも私たちの思い込みから少し離れて問いを持ってもらうことを大切にしています。
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