食を主役に引き立てる「名脇役」として ~風土と自由な心がつなぐ曲げわっぱの未来~

- 柴田 昌正 さん/柴田慶信商店 代表取締役
- 1973年、秋田県大館市生まれ。大学卒業後、2年間の会社勤めを経て秋田へ戻り、父・慶信氏に弟子入り、曲げ物の道に入る。2010年、代表取締役就任。20年、大館曲げわっぱ協同組合理事長就任。アメリカのサンフランシスコやソノマでワークショップの開催、イタリアのミラノで展示会を行うなど海外でも活動の場を広げている。
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「大館曲げわっぱ」とは
秋田県大館市の厳しい寒さと豊かな自然が育んだ「秋田杉」。日本の三大美林にも数えられるこの美しい木材こそが、伝統的工芸品「大館曲げわっぱ」の命です。
秋田杉が持つ優れた吸湿性や抗菌効果は、炊きたてのご飯の余分な水分を吸い、時間がたってもおいしさを保つという素晴らしい効能を持っています。この先人の知恵が生み出した機能美があるからこそ、私たちの作る曲げわっぱは、利便性を追求する現代の暮らしの中でも変わらずに求められ続けているのだと感じます。
曲げわっぱは食を支える存在
柴田慶信商店がものづくりにおいて何よりも大切にしているのは、曲げわっぱはあくまでも「名脇役」であるべきだという想いです。主役はどこまでも、その中に入るご飯やおかずといった「食べ物」。
器が主張しすぎるのではなく、主役である食のおいしさを最大限に引き立て、日常の食卓をそっと支える存在でありたい。私たちはその一心で、日々ものづくりに向き合っています。
大館から海外へ
近年では、アメリカやフランス、イタリアなど海外での展示会や、現地の方々に実際に製作を体験していただくワークショップも重ねてきました。言葉の壁を越えて私たちの手仕事が深く喜ばれる姿には、職人として大きな手応えを感じています。
先代である父親の時代には、どれほど良いものを作っていても、地方からの情報発信には限界がありました。しかし、現代はSNSの発展によりその垣根が取り払われ、かつてはこちらから出向かなければ届かなかった魅力を、一瞬で世界中へ届けられるようになりました。
今では、海外からもこの大館の地へ、お客さま自らが足を運んでくださる機会が増えています。これは大館の風土が育んだ歴史と、その時代に求められるものづくりに柔軟に対応し、伝統をつないできてくれた先人たちのおかげにほかなりません。
次世代へ伝えていきたいこと
私が二代目として先代から受け継ぎ、そして次の世代へ伝えていきたいのは、何よりも「仕事を楽しむ」という姿勢です。物事がうまく進んでいる時はもちろん、たとえ大変な苦労がある時でも、それを面白がり、周りの人々を笑顔にできるような仕事でありたい。そして私たちの活動が、職人の育成だけでなく、この大館という地方の町おこしにもつながっていけば、これ以上の喜びはありません。
過去の型にとらわれず、縛られることなく自由であること。丸く収まり、円(縁)が切れない曲げわっぱのように、この美しい手仕事を「やりたい」と願う未来の担い手たちが、脈々とバトンをつないでいける仕組みを作ること。それが、今の私に課された大切な使命だと思っています。
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