「和紙スイーツ」で甘い笑顔に
- 倉 美紀さん/和紙スイーツ作家
- 名古屋市在住。幼少からお菓子作りを母と共に楽しみながら育つ。建材商社時代、ショーウィンドーを創作紙人形で飾ったことが、和紙とイメージ表現の楽しさに触れるきっかけとなる。その後、洋菓子の道に進み、ケーキ教室の講師を7年間勤める。オリジナル作品「和紙スイーツ」(商標登録)をつくり、展示・教室活動を行っている。(手に持っているのが典具帖紙)
http://washi-sweets.com
「和紙スイーツ」は、和紙を使ってお菓子をテーマに表現したオリジナル作品です。それは好きなことを続けているうちに、自然にたどり着いたかたちのように思います。
幼いころ、母がよく作ってくれたマドレーヌ。その周りにはいつも笑顔があふれていました。自然とお菓子作りが好きになり、みんなが喜んでくれることがうれしくて、お菓子作りはいつもそばにある幸せな時間でした。
一方で、もう一つ好きなものとの出会いがありました。それは会社員時代に携わったウィンドーディスプレイ。創作紙人形で季節を彩った小さな空間。「ひな祭り」「海辺の人魚」「月とかぐや姫」など、そのときの心湧き立つような喜びがずっと心に灯っていました。
お菓子作りが好き、紙が好き、表現することが好き…。いろいろな想いをめぐらせながら、何年かたってケーキ教室で教える仕事に就きました。
あるとき、恩師にお礼状を出す際、感謝の気持ちを手作りで伝えたいと、紙でケーキを表現して、はがきに貼りました。喜んでもらえたらうれしいな。―それは大好きなお菓子と紙が重なった始まりの1枚でした。
紙でのお菓子を作り続けていくうちに、たどり着いた紙が「典具帖紙(てんぐじょうし)」という厚さ約0.03ミリの透けるほどの極薄和紙です。それを何枚か重ねてできる無限の色、強くてしなやかな和紙は立体を包み、また紐や丸に形を変えてくれます。和紙のぼかしが焼き色に、よった紐はクリームになどなど。和紙ってすごい!手作りの温かなお菓子が一番表現できる紙はこの和紙。和紙に秘められた可能性を感じ、また自分の国の紙を誇らしく見つめました。
大好きなお菓子と和紙を重ねて「和紙スイーツ」と名付け、初個展までの歩みとなりました。作品はお菓子から広がるイメージで、「ケーキな街」や「ショコラ時計」、「マカロンの行列」、モンブランを擬人化した「栗太郎」など、思いのままに表現しています。
個展から、いろいろな方との出逢いとご縁に恵まれ、教室や展示活動も広がっていきました。フランスのボルドーで開かれた合同展『日本文化・伝統と現在』にも参加でき、現地の方々と和紙で和菓子作りのワークショップも経験。展示会場で作品を見たり、作った作品を眺める皆さんの笑顔…。ふと、その笑顔はケーキ教室の講師時代に感じた、出来上がったケーキを囲む温かな笑顔とまるで同じだと思いました。和紙スイーツを通して、多くの方の笑顔と出会えることは何て幸せなのだろう…と。
和紙スイーツの教室活動も今年で10年目を迎えます。教室では和紙に触れて楽しみながら、平面から立体まで多様な表現を体験してもらっています。
手に優しい和紙は、年齢や国籍を問わず、その人に寄り添ってくれるようにも感じています。ボルドーでのワークショップでも、現地の方が初めて手にする和紙をスルスルとお菓子へと変えていく姿に驚きました。最近始めた親子教室では、薄い和紙に目を輝かせ、小さな手が和紙を粘土細工のように形作る様子を見て、改めて和紙ならではの素材の力・豊かさを感じました。そのすばらしさを伝えつつ、交流の場にも生かしていけたらと考えています。
また洋菓子から始まった和紙スイーツですが、年々「和」の魅力を感じるようにもなりました。繊細な日本の紙だからこそ、繊細な日本のお菓子が表現できるのかもしれません。日本の紙と、四季折々のお菓子や行事。作品で季節を甘く彩っていくことも、大切に続けていきたい創作の一つです。
「お菓子が好き、和紙が好き、喜んでくれるその笑顔が何より好き」。和紙スイーツで、これからも甘い笑顔を届けていけたらと思っています。
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