AIは魔法使い⁉

- 小林 武彦さん/生物学者
- 九州大学大学院修了(理学博士)。基礎生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所等を経て東京大学定量生命科学研究所教授。日本遺伝学会会長、生物科学学会連合の代表等を歴任。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』等。
子どもの頃、魔法使いになりたかった。たとえばマハリク マハリタと呪文を唱えれば宿題を片付ける、おやつを増やすなどお手のもの。しかし主人公の女の子は、そんなプライベートなことには能力を使わない。いじめっ子を懲らしめるなど正義を貫く。
いまだに紛争が絶えない世界情勢を見ると、誰も正義の魔法使いにはなれていないようだ。一方でテクノロジーは日々進歩している。江戸時代の人から見ればスマホなどは「ほぼ魔法」のようなものである。そして昨今のAIブーム。大学の授業で出すかなり専門的な課題も数秒で模範解答を書いてくれる。人生相談から絵や音楽などの芸術に至るまで、あっという間に回答、作成してくれる。
さてここからが本音の話。
IT系の超テクノロジー、つまり「ほぼ魔法」を手にした人類は、便利になったように思えるが実際は「幸せ」なのだろうかと。メールが激増し、何時間もかけて返信をしている。Zoom会議の数はやたらに増え、逆に親睦を深める楽しい出張は減った。教育面では学習効率が上がっているような実感はないが、学生のレポートが長くなって読むのが大変になった。「ほぼ魔法」のせいで私自身の能力は変わらないのに処理しないといけない情報が増えたのである。そこでAIを使って情報を整理して「まとめて」もらい解決を図る。ITが増やした情報をAIにまとめさせる、まさに「情報バブル」の真っ只中である。
私たちの脳は、時間とともに流れる「物語」として物事を記憶し理解するように進化してきた。原因から結果にいたる変化を脳は捉えているのである。逆に無意味な数値の羅列を記憶するのは苦手だ。一方AIは単なる記憶を得意とし、膨大なデータを関連性の強弱で分類分けして回答する。その過程はブラックボックスで人は理解できない。
ここで一つ問題が発生する。常に物語を求める私たちの脳は、「はいこれが結果です」と出されたものを素直に受け入れられない。つまりブラックボックスが気持ち悪いのである。たとえば、マハリク マハリタと唱えて魔法で出した出所不明なケーキを食べる気にはなれない。物語のない人工的な感じがする。
コンピューターは複雑な計算や膨大なデータ処理を瞬時に実行するツールとしては大変役に立つ。たとえば災害予測や画像診断などには最適である。しかしそれ以外の人の感性に訴えるような食や芸術には向かないようである。理由は、いくら人に語りかけるような流暢な言葉で出力されてきても、天才的な綺麗な絵を見せられても、元は数値の羅列であり、背景となる人間模様や共感できるような共通体験がない。人にしかできないことを大切にしたいものである。
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