ソーリャ!祭りは止まらない
- 大原 学さん/マツリテーター
- 早稲田大学在学中に祭りと出会い、人生を懸けて向き合うことを決意。日本GEなどを経て独立し、2016年にマツリズムを法人化。全国16地域で祭り参加企画を展開するほか、「おまつり先生」として出前授業も行う。NHK等のメディアにも出演し、祭りの魅力を発信している。
鐘の音が響く中、「ソーリャ、サッカサイト!」と声を合わせ、肩に重みを食い込ませながら奉燈(ほうとう)を担ぐ。石川県七尾市の「石崎(いっさき)奉燈祭」は、高さ10メートルを超える巨大な奉燈が練り歩く、勇壮な夏祭りだ。足と腕を振り、運動部の合宿のような全身運動が延々と続く。汗は滝のように流れ、視界は揺れ、それでも動きは止まらない。沿道から浴びせられる拍手や声援が、身体の奥底まで火を灯す。そこには、ただ観るだけでは分からない、身体で刻む祭りの時間がある。
私は「祭の力で人と町を元気に!」を掲げるマツリズムの代表として、全国の祭りの担い手不足や継承の課題に向き合ってきた。能登には震災前から継続的に通い、震災後は「あばれ祭」を筆頭に、祭りの再開を支える活動を行っている。
石崎奉燈祭には2023年に初参加したが、その際は奉燈が途中で進まなくなってしまい終わり時間が見えず、深夜3時半に泣く泣く離脱。外から初めて来た者にとって過酷すぎる環境だった。「十分やり切った」と自分を納得させたが、心の底では完走できなかった自分を責めていた。
しかし翌年、震災の影響で祭りの状況は一変した。昨年は祭りの開催が危ぶまれるも、奉燈のルートを変更し限定開催。今年は通常開催となり喜ばしい一方、一昨年のように途中で息切れしてしまうのではと心配もあったが、6つの奉燈はペースを落とさず完走。「縮小」以外の道があったのか、と衝撃を受けた。マッチョなやり方だが、能登人の底力と覚悟を目の当たりにし、自分が頭の中だけで「持続可能性」を考えていたことに気づかされた。
この祭りの魅力のひとつは、再会の場であることだ。能登や東京で出会った仲間と、石崎で肩を並べる。漁師町の細い路地で笑顔を交わし、掛け声を合わせる瞬間は、まるで同窓会のような温かさがある。
石崎の人々にとって、外から来た担ぎ手は「助っ人」だ。奉燈を上げるために必要とする一方で、「一緒に祭りをつくる仲間」として受け入れる雰囲気とはまた違う。単なる人足ではなく、1人の人間として迎え入れる余白があれば、祭りはもっと強くなる。おもてなしは必要ないけれど、笑顔で声を掛け合うだけで行動は変わる。たった一言の「ありがとう」が、次の年も担ぎに戻ってくる理由になると思う。
この祭りと3年の関わりで得た最大の財産は、人とのつながりだ。地域との橋渡し役であり「仲間」でもある人に出会えたこと。そして、祭り復活の瞬間を共にし、石崎の歴史の一部を体で刻めたという事実。この経験は、たとえ関わり方が変わったとしても、今後も祭りに向き合う覚悟を与えてくれる。
祭りは町を強くし、人をつなぐ。「サッカサイト!」の掛け声とともに、来年またここに戻って来られることを願っている。
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