飛行機の客
- 小泉 武夫さん/農学博士
- 1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。専攻は、醸造学・発酵学・食文化論。東京農業大学応用生物科学部教授、鹿児島大学客員教授、NHK国際放送番組審議会委員などを務める。著書は『酒の話』(講談社現代新書)、『旅せざる者、食うべからず』(光文社知恵の森文庫)など90冊以上。『全国こども電話相談室』(TBSラジオ)、『小泉武夫の行った・見た・食った』(RKB毎日放送)に現在出演中。
講演を頼まれて、九州のとある市に行くことになり、昼少し前に羽田空港に着いた。定刻の50分も前であり、時間もたっぷりある。早速、自動チェックイン機で搭乗の手続きをすると、何とも不思議なことに目の前の画面に「カウンターで手続きをしてください」などといったことが表示された。そこでカウンターに行ったところ、係の女性に、すでに座席が打ち込まれた搭乗券を手渡された。いやな予感がした。とにかくそれを受け取り搭乗ゲートに行くと、その予感が的中した。
300人を超すであろう修学旅行の高校生(男女)たちが、そのゲート周辺に広がって騒然とした状況であった。大声でキャーキャーワーワーと歓声をあげていて、一般客が隣同士で話をしても聴こえないほどだ。生徒の半分ぐらいは通路の床に座り込み、ルーズソックスとかいうのを履いた女子高校生の何人かは、ペッタリと尻を通路の床につけて座り、化粧などをしている。男子生徒の中には車座になってカードに熱中している者もいた。
あまりにもうるさい。ところが、引率の先生らしき人も見受けたが何ひとつ注意せず、そればかりか椅子に座って新聞を読んでいる。いよいよ機内に乗り込むことになった。まず、その高校生たちが優先で乗り、老人や一般客はその後である。なんだか空しくなりましたなあ。
出発ロビーは誰のものなの?みんなのものなんだよ。
次の話は機内のこと。海外から日本に帰ってくる国際便が成田や関西空港に到着する3時間ぐらい前の機内で、どうにも腹の立つ思いをした人は少なくあるまい。
それは機内に数ヶ所しかないトイレの話である。着陸が近くなったというので乗客たちは一斉に身支度を始める。大体はまず、トイレに行って用を足すのが普通のパターンのようだが、この時間帯、腹の立つ思いをいつもするのは私だけだろうか。
実は先日、アメリカから帰ってきたときもそうだった。若いお嬢さんが、何やら小さな化粧ポーチを持ってトイレに入ると、さあ出てこない。外にはトイレに入って用を足したい人が次々に並び始めているのに、まだ出てこない。お年寄りも、子どももみんな早くしたいのにまだ出てこない。そして、15分もして、やっと出てきたとき、その若い女性のすっきりした化粧顔が実に腹立たしかった。それも、何もなかったように悠然として出てきたのだ。おいおいお嬢さん、機内のトイレは、このようなときは用を足すのにだけ使うのが乗客みんなの暗黙の約束事、つまり旅する者の常識事であって、悠然と化粧するところではないのですぞ。飛行機から降りて行くとき、その女性は両手に余るほどのブランドものをぶら下げて歩いて行きました。
機内のトイレは誰のもの?みんなのものなんだよ。
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