連載コーナー
本音のエッセイ

2014年12月掲載

私たちは樹によって生かされている

岡山 瑞穂さん/樹木医

岡山 瑞穂さん/樹木医
1968年生まれ。2001年「樹木医」合格。天然記念物や貴重な樹木の診断治療を手がけ全国的に業務を展開。フォトエッセイ「樹を診る女のつぶやき」は全国新聞社出版協議会「第5回ふるさと自費出版大賞」優秀賞受賞。NPO法人フォーエバー・ツリー・ネットワーク代表理事・株式会社木風 代表取締役

「はじめまして。樹木医です」と自己紹介すると「初めて聞きました。樹に医者なんているんだ」と言われることは多々あります。皆さんはご存じでしたか?樹木医は現在全国で約3000人ほど、女性は10%程度。年に1回認定試験があります。

実際、樹木医って何をしている人なのでしょう?人には人のお医者さんがいて動物には獣医さん、そして樹木には樹木医さん。樹だって生きているのですから具合が悪いときはお医者さんが必要です。ただし全て往診になってしまいますけどね。

樹について、生きていることを忘れている方が多いようなのですが、樹は二酸化炭素を吸収し太陽光を使う光合成という働きから、動物が生きていくのに不可欠な酸素を作り出しているのは有名ですよね。実はこんなことができるのは植物、樹木だけ。台風が来ても、大枝をむやみに切られても、狭いところの根をつぶされても、せっせと黙って私たちにお金では買えない貴重な恵みをもたらしてくれています。

樹木医はそんな物言わぬ樹木を少しでも楽にしてあげられたら、という思いで、日々樹のために奮闘している専門家なのです。

樹木医への診断や治療の依頼は、官公庁を中心に、個人の方の大切な樹木、企業のシンボルツリーなど、公共性を持った仕事が多くを占めています。街路樹も実は樹木医が診断して管理に役立てているんですよ。

樹の病気はさまざまで、多くは人為によって具合が悪くなっています。人の病気もそうですが生活習慣を改めると良くなりますよね?同様に土壌や周辺の環境を整えるのがとても重要です。

「何とかしてください!」と相談を受けたときはかなり重症のものもあります。根が出ているからかわいそうと土をかぶせ、その後駐車場にしてアスファルト舗装になったところもありました。そうなると、根は呼吸困難に陥り、腐り、全身に水分や養分が行き渡らずに衰弱して枯れます。

だから樹木医は樹のことだけを見つめてもダメ。木を診て森も診る。周囲の環境を読み取ることが求められます。ですから私の場合は、樹木医の技術を応用して、森のカフェや緑の多いマンションの管理なども行っています。樹木医って実は生態系、環境全体のお医者さんなんですね。

そして、苦しんでいた樹木の原因を取り除くと、心なしか穏やかな表情がその幹に浮かんでいるような気がします。森からは葉が揺らぎ微かな笑い声が聞こえるようです。

最後は持ち主の方の安堵の表情。「ほっとしました」と言ってもらえると、そうか、樹木医はもしかして人の心にも重要な役割を果たしているかも?などとおこがましいことも考えてしまいます。とてもありがたい瞬間です。

樹は人よりずっと長生きです。条件が良ければ理論上不滅です。そんな私たちの先輩であり、未来を託す後継者に、尊敬と畏敬の念を抱き、ほんのちょっとだけ、みんなが樹の生活を守ってくれれば、きっと大きな枝を広げて優しく私たちを包み込んでくれるでしょう。

(無断転載禁ず)

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