心に響く“本当の音”
- 岡野 玲子さん/漫画家
- 1982年漫画家デビュー。代表作は『ファンシィダンス』(89年第34回小学館漫画賞)。夢枕獏原作の『陰陽師』は2001年第5回手塚治虫文化賞マンガ大賞、06年第37回星雲賞コミック部門受賞。他に『妖魅変成夜話』『イナンナ』がある。『陰陽師』の続編、『陰陽師 玉手匣』(原案:夢枕獏)が、昨年全7巻で完結。
『“本音”のエッセイ』という依頼に、思わず“本音”という言葉の意味を調べてしまいました。“本音”という言葉の“本音”があるかも!と。
ところで、普段、漫画を描く時、物語の中の言葉を選ぶ時、私はあまり頭で決めません。物語のシーンや、言葉が、頭や心に浮かんだ時、それを多くの人に読まれる作品として表現してよいかを、心に聞いてるの。心はどう思っているのかなあ。…というか、心臓のあたりにある感覚はどう感じているのか…。心地よくしてるかな。苦しいかな。とか。変かしら?まあ、気にせず続けてみますね。
心臓のあたりがふんわりと、柔らかい感覚になって、広がっている気持ち、そんな感覚になるシーンや言葉ならOK。苦しくなったり、狭いところに閉じ込められるような感覚になったら、表現を変えるか方向性を見直す。
脳もふわっと頭蓋の感覚が消えて、空気と一体になって、自由。そんな時は、仕事がうまくこなせて、いい感じ。普段自分の頭を締め付けている人が、仕事場に入ると、私も締め付けられてしまうので、苦しくて仕事にならない。そういう時は、リラックスして、心も頭も緩めてもらう。すると、表情も明るく、軽やかになるから。
さて、そんな私にとって“本音”とは、文字通り、“本当の音”。“本当の音”とは、すべての存在が等しく持っている、その存在固有の、純粋な振動音。振動数。個々の存在が、この世に出現した時から持っている、原初の音というのかしら。石も木も、動物も、建物も、一つの組織としての会社も、もちろん、人それぞれも、それ固有の“本当の音”を持っている。
その“本当の音”の中に、個々の、この世での計画の全てが、記録されている。一人一人の魂の特色、本質、情報の全てが既にそろっている。と、わたしの“本音”は感じるのです。あ、やっぱり変ですか…。
では、少し、頭をお休みさせて、自分の内側の温かい暗いところに、ほっと自分も休ませて、其々に固有の、宇宙に一つしかない、自分の心の奥の“本当の音”に耳を澄ませる。これ、気持ちよくないですか?
“本当の音”に耳を澄ませて、心から発する言葉は遅い。慎重に言葉を選ぶから。
“本当の音”に耳を澄ませて、心から取る行動も遅い。ちょっと勇気がいるから。
けれど“本当の音”から発せられた、言葉や行動は、受け取った人の心に響く。それは相手の“本当の音”に届いて響くから。
携帯で寸時にコミュニケーションが取れる便利な時代。それは、海も国境も宗教も越えて心の喜びを共有できる宝物。けれど、心の奥の“本当の音”にも、耳を澄ませてみて。忘れてしまった、思いがけないポジティヴな可能性が秘められているような気がするから。
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