連載コーナー
本音のエッセイ

2019年7月掲載

“本音”の取り扱いって、なかなか難しい

山口 拓朗さん/伝える力【話す・書く】研究所所長

山口 拓朗さん/伝える力【話す・書く】研究所所長
1972年鹿児島生まれ。著述・講演家・山口拓朗ライティングサロン主宰。23年間で3000件以上の取材・執筆歴がある。中国でも文章講座を定期開催するなどグローバルに活躍中。最新刊『「9マス」で悩まず書ける文章術』(総合法令出版)ほか著書多数。

メール経由で原稿や講演の依頼を受けることが多い。いろいろな企業や団体からさまざまな依頼メールが届く。しかし、なかには残念なメールも少なくない。一番ひどかったのは、ある大手出版社からの書籍執筆の依頼だ。そのメールには決して送られてきてはいけない内部資料が添付されていた(送信者はそのミスに気づいていない)。著者候補がランク付けされた資料。わたしは7人中3番め。総評には「まだ変な色がついていない」とあった。私に執筆依頼をしてきたということは、上位2人には断られたのか。やれやれ。「ぜひ山口先生にご執筆いただきたく〜」とあるが、果たして本音はいかに。

最近はウェブ媒体からの執筆依頼も多い。専門的な原稿を書かせてもらえるのは楽しくやり甲斐もある。しかし、なかには、検索流入でのアクセスアップを露骨に狙い、本文中に盛り込むキーワードを事細かに指定してくるケースもある。たとえば「ビジネスメール術」がテーマであれば、条件として「返信 マナー できるだけ早く 時間 お詫び 失礼」などの言葉を入れてほしい、という具合だ。うむ、縛りが多すぎて、書きたいように書けぬ。「三題噺」をやらされている落語家の気分だ。できれば、キーワードを盛り込む作業は、原稿納品後の編集作業でなんとかしてもらいたいものだ。

講演依頼のメールに「講師料はおいくらでしょうか」とあり、その先を読み進めると「現在、山口先生を含め、数人の方が講演者候補に挙がっております。後日1名を選ばせてもらう点をご了承ください」とある。おいおい、引っ越し業者のアイミツじゃあるまいし。「あなたの話が聞きたい!」という熱意はゼロ。「それなら結構です」とヘソを曲げるのも子どもじみている。だから、その手の依頼主に対しては、秒速で候補から外してもらえるよう、驚くほどの高値をつけて返信するようにしている。

さて、本原稿の依頼はどうだったか。メールに添付されていた原稿執筆依頼書に「今、ご興味をお持ちのことやお考えになっていることなどに対してご自由に、“本音”で綴って頂きたく存じます」とあるではないか。縛りなし。リスペクトも感じる。よし、自由に書けるぞ! モチベーションがグンと上がる。

しかし、だ。いざ書こうとすると、ん? 本音? 本音ってなんだ? 何をどう書けばいい?…と何日も、いや、何週間も思いあぐねてしまった。仕事のこと? プライベートのこと? それとも社会時評的なものがいいのか? 考えれば考えるほど決まらない。そして、はたと気づいた。「自由に書いていい」という依頼ほど難易度の高いものはないのだな、と。ああ、こんな原稿、受けなければよかった、と思わず本音を書きそうになった(いや、書いた)。

(無断転載禁ず)

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