今までにないスノーグローブを 〜作品の世界観を精巧に再現〜
- 石田 兵衛さん/スノーグローブ作家
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スノーグローブ(スノードーム)との遭遇
僕にとってそれは旅先で売られているつまらないお土産、という印象だった。中身の作りがゆるい安物で、家に着いた途端に買ったことを後悔するような代物だ。球体に閉じ込められた世界観には心惹かれるものがあったのだが、自分で作れるとは思わなかったし、そういったことを調べるほどのモチベーションも湧かなかった。そんな認識が一変したのは、アメリカ人のスノーグローブ作家(正確には現代美術の作家)を紹介した記事を読んだ時だ。その作家の作品は既存の概念を覆す素晴らしいものだった。皮肉とユーモアを利かせたその世界観にはとても魅了されたし、自分でもこれを作ってみたいという動機になった。
作り方は何処に?
手始めにWEBで作り方を検索したが、瓶を使ったものやフォトドームなど簡易的なものがメインで理想とは程遠い。そんな時に見つけたのが、日本スノードーム協会のインストラクター講座募集の告知だ。インストラクターにはなるつもりはないが、作り方は学べるらしい。それならと応募したが、参加者は僕以外全員女性だった。後で知ったことだが、日本でスノーグローブ作家として活動しているのは女性が多い。講座では、中に入れる水は精製水を使うこと、ウエットスーツの修理に使う接着剤を使うなど、基本的なことをいろいろと学んだ。ただ、仕事で長年ミニチュア製作に携わってきたので、中身を作ることでの発見はなかった。
さらに進化させる
水中では物が大きく見えるので、中に入れる物は見えているよりもとても小さく作る必要がある。それを手で作るのは困難だし、自分が目指しているディテールは表現できない。そこで本業で使用している3Dソフトでモチーフを作り、それを3Dプリンターで出力して着彩して仕上げている。これでかなりの細かい部分まで製作が可能になり、自分の理想に近づいた。
そうして作品がたまったところで念願のスノーグローブの展示を行ったのだが、ドームの中でパウダーが舞っていない状態ではスノーグローブの魅力が伝えきれない。誰かが展示会場で実際に操作しない限り、それを見せることができないのだ。観客にそれをやらせるには危険が伴う。そのジレンマについて考えていたところ、たまたま知り合ったおもちゃメーカーの方がある部品を中国から取り寄せてくれた。
新しい展示の仕方
その部品というのは電動式スクリューが蓋についていて、モーターの仕掛けで撹拌(かくはん)できるものだった。これに一定時間だけ作動する回路を設計して、更に人感センサーを組み込んで人が近づくとスイッチが入るようにした。これを台座に組み込み、3Dプリンターで出力したものをテストした。これで自分が理想とするスノーグローブの展示方法が完成した。これを量産して次の展示に使用したが、観客にも好評でうまくいったという手応えを掴んだ。その後もこれをベースに改良を加えている。
水中で光らせる挑戦
現在取り組んでいるのは、スノーグローブにおける照明だ。水中では通電してしまうので普通のLEDは使えない。中国から取り寄せたLEDは水中でも使用可能で、サイズもかなり小さい。それを使って灯台のスノーグローブを作っている。新しい試みとしてスイッチには傾きセンサーを組み込んでおり、振ると1分間だけ灯台のように明滅を繰り返す。配線の整理やバッテリーの取替え方法などをクリアすれば完成だ。
このように今までになかったスノーグローブの表現を探りつつ、今後も作り続けていきたいと思う。
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