小さなデミタスに凝縮された無限のデザイン〜繊細で豪華な装飾芸術品2200客を収集〜
- 村上 和美さん/アンティーク・デミタス・コレクター
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https://demi-tasse.art/
【インスタグラム】https://www.instagram.com/kzmicm/
デミタスの愉(たの)しみ
朝コーヒーをいれながら「今日はどのデミタスを使おうか」と考え、私の1日が始まります。その日の気分に合わせて選んだ小さなカップに、香り豊かなコーヒーを注ぎ入れ、繊細な磁器の口当たりと華麗な装飾を愉しむのは至福のひとときです。「デミタス」とはフランス語で、普通のカップの半分「demi(デミ)」ほどの大きさのカップ「tasse(タス)」のことをいいます。
気がつけば2200客を超えるコレクションに
幼いころ、母がいつもドリップ式でいれたコーヒーを小さなカップでおいしそうに飲むのを見て、自分でもデミタスを集めるようになりました。中でも100年ほど前にヨーロッパや日本で作られたアンティーク・デミタスは、装飾も形状も実に多様で飽きることがありません。小さくてかわいくて、美術史を反映するようなその時代ならではの絵柄、デザイン、技巧をこらした芸術品といえます。
「なにもなにも、ちいさきものはみなうつくし」と清少納言が言うように、手のひらにすっぽりと入る小さなデミタスの煌めく意匠に魅了され、気がつけば2200客を超える数をコレクションしていました。
デザインが好きなものだけ集める
コレクションするうちに次第に自分のルールになったことがいくつかあります。
好きなデザインの幅は広く、手描きでその時代の特長が感じられるような物に注目しています。中でも19世紀後半から欧州で流行したジャポニスムやアール・ヌーヴォーの、自然をモチーフとした伸びやかな意匠には強く惹かれます。また、日本では有名ではなかったり、すでに廃業した窯のものなどを「再発見」するのも楽しいものです。コレクション自体の重みを増すためには、好みを重視するより歴史的価値のあるものを多く入れるべきとも聞きますが、好きなものでないとなかなか手が出ません。
必ず一度はコーヒーをいれて使ってみる
一方、歴史的価値も高くデザインも素晴らしいものは、せっかく入手したら大事に飾っておきたいのですが、それだけではもったいないとも思うのです。中には使うのが恐れ多いようなものもあるのですが、とにかく一度は使ってみると決めています。実際にコーヒーを注ぎハンドルをつまみ口に当て、当時どんな人達がどんなことを思いながら使ったのだろうと思いを馳せてみる、すると、そのデミタスの本当の姿が垣間見えるような気がするのです。
使ったデミタスをSNSにアップする
2012年4月からフェイスブックに「本日のカップ」として、毎日使ったデミタスの写真と説明文を投稿するようになりました。自分の記録用に始めたことですが、そのためにメーカー名や制作年代などを調べていくうちに、その歴史的背景や当時の風俗などを知ることになり、100年以上前のアンティーク・デミタスが一気に身近に感じられるようになりました。
その後、インスタグラムにも投稿を始めると、世界中のカップ愛好家の人々とも繋がりができ、情報交換や交流の輪が広がりました。
あるときにはトルコのコレクターの方から自分が買おうとしているアンティーク・デミタスについて相談したいとメッセージが届いたので、知っていることをお伝えしたところ、とても感謝され、わざわざトルコのお菓子やコーヒーセットを送ってきてくださいました。
「デミタスカップの愉しみ」展
コレクションの一部を、2020年11月より巡回展「デミタスカップの愉しみ」展として披露しており、現在、八王子市夢美術館(東京都)にて開催しています(11月27日(日)まで)。来年は大分県、兵庫県などでの展示が予定されています。
趣味で始めた収集とそれにまつわる知識が海を越えて誰かの役に立ったり、コレクション自体も巡回展として多くの方々の目に留まる機会を得られることになろうとは、当初は思いもよらないことでした。
100年前後の時を超えて、たまたま私の手元にあるこのデミタス達はこれからも時を重ねていくことでしょう。デミタスからすれば私もまたその歴史の一部に過ぎません。この豊かな文化をぜひ次の世代へも引き継いでいければと思っています。
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