おいしい料理はみんなを笑顔にする〜食で日本と世界をつなぐ〜
- 青木 ゆり子さん/e-food.jp代表/各国・郷土料理研究家
- お問い合わせ先
世界の料理 総合情報サイトe-food.jp
https://e-food.jp/
ニューヨークでの鮮烈で衝撃的な食体験
子どものころから地図を眺めるのが好きでした。世界地図を広げて、当時集めていた世界の切手のきれいな絵柄と照らし合わせて、あんな国やこんな国に行ってみたいと想像をめぐらしていたのを思い出します。
そんな願いがかなって、初めて海外に行ったのは学生時代の夏休み。行き先はニューヨークでした。英米文学を専攻していて演劇やミュージカルに夢中になり、本場ブロードウェイの舞台をどうしても見たかったためです。
ニューヨークでの1カ月間は、毎日のように舞台を見に行っていたのですが、滞在先の友人のアパートがマンハッタンのプエルトリコ人街にあり、エキゾチックなスパイスの香りが鼻をくすぐりました。そして劇場通いをする傍らで、ニューヨークには世界の縮図のようにいろいろな民族が暮らしていて、移民街に行けば本物の郷土料理が食べられることを知りました。
たとえば中華街では香港さながらの飲茶やワンタン麺、ギリシャ人街では大きな焼肉を削ぐスブラキ、ユダヤ人街では具がはみ出んばかりのパストラミ・サンドといったように。それは日本しか知らなかった私にとって、鮮烈で衝撃的な食体験でもありました。
おいしい料理はみんなを笑顔にする
卒業後しばらくは情報誌の演劇記者等をしていたのですが、東京でレストランを食べ歩いたり、自分で作っていたりするうちにますます各国料理の魅力にはまり、インターネットが普及し始めた2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp」(当初は「エスニック料理のページ」)を設立するまでに。おいしい料理はみんなを笑顔にし、言葉や習慣の違いを越えて世界の人々と仲よくできることにやりがいを感じたのです。
凝り出したら止まらないのが良くも悪くも私の習性で(笑)、2006年には会社を設立して、趣味的に運営していたサイトや料理イベントを仕事にすることにしました。まず始めたのは、社会貢献へのミッションをしっかりと掲げ、人々の役に立つ仕組みを考えることでした。
食で日本と世界をつなぐ活動を
仕事が軌道に乗るまでにはいろいろ失敗したし、時間もかかりました。それでも、確固たる基盤は簡単に作れるものではなく、地道な努力の積み重ねだと信じていました。
そして、結果はあとからついてきました。世界約70カ国を取材して郷土料理を学び、当初は大使館でその国の料理をお客様に提供するなど夢にも思っていませんでしたが、セルビア共和国大使館のネナド・グリシッチ元特命全権大使閣下が私にチャンスをくださり、レセプションのたびにシェフとして声をかけてくださったのです。
こちらも責任を感じ、30代をとうに過ぎてからホテルの厨房で本格的に修業して調理師免許を取得。またセルビア本国まで現地シェフに取材に行く等、期待を裏切らないよう調理の腕を磨きました。
大使館のシェフはただ郷土料理を提供するだけでは不十分で、外交の場として、日本人ならではの食知識等を活かし、両国の文化に敬意を表しながら友好を強固にする心得が必要です。そのため、大使館ではシェフと同時に簡単な食講義を行わせていただきました。そんなある日、セルビア人のゲストから「レシピを教えてほしい」と話しかけられたときには、何ともいえぬ達成感を得たのを覚えています。
その後は他の大使館でも郷土料理を作らせていただいたり、2020年に20年間の集大成として世界300カ国・地域のレシピをまとめた『世界の郷土料理事典』(現在5版目の重版出来)を出版。2021年の東京オリンピック/パラリンピックの際には、日本の地域活性化の一環である内閣官房ホストタウン事業で、全国の自治体向けに食文化講師を担わせていただきました。
「継続は力なり」という言葉の重みをかみしめながら、食で日本と世界をつなぐ活動をこれからも続けていきたいと思っています。
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