広島を盛り上げる「お好み焼」の力
ソウルフード・応援団としての役割
- お好み焼みっちゃん総本店 代表取締役会長
槙本 良二さん - 広島市出身。広島大学附属高校、東京大学経済学部卒。学生時代は応援団長を務める。東京海上火災保険、ネッツトヨタ中国・トヨタカローラ広島を経て、2024年より「お好み焼みっちゃん総本店」に入社、現職に至る。応援人生約50年。人の応援を生業とする。
お別れの会
2024年9月4日に「お好み焼みっちゃん総本店」の創業者である井畝満夫氏(享年91)の「お別れの会」を広島市内のホテルにおいて開催した。広島県の政財界のトップの方々から、一般市民の方々まで約1000人が、みっちゃんこと井畝満夫氏との別れを惜しむため、会場にお越しになった。また当日配布した追悼文集にも、各業界のそうそうたる方々からの、お好み焼みっちゃんにまつわる思い出が寄せられており、私はあらためて、みっちゃんの広島における存在の大きさを感じ、井畝満夫氏がお好み焼にかけた75年の歴史の重みに思いを巡らせ、感慨に浸った。
お好み焼みっちゃん誕生秘話
広島といえば「お好み焼」、お好み焼といえば「みっちゃん」と名が挙がるほど、今や広島のソウルフードとしての地位を盤石にしたこのお好み焼は、どのように生まれてきたのであろうか。
原爆を投下され、まだまだ戦後の傷跡も癒えぬ復興途上の昭和25年、広島の繁華街、中央通りに屋台でお好み焼店を出したのがみっちゃんのスタート。最初は「美笠屋」という店名だったが、お客様が見つけやすいように井畝満夫(みつお)の愛称からとった「みっちゃん」と店名を変えて、親しみやすくなり、人気を博していった。
最初は、小麦粉で作った薄い生地にネギ・天かす・とろろ昆布などを挟み、ウスターソースをかけた「一銭洋食」といわれる子どものおやつのような食べ物から始まり、次第にキャベツ、モヤシ、そして豚肉、ソバ、卵と具材を増やしていき、今のお好み焼が完成されていく。ソースも当初はウスターソースであったが、とろみのある現在のお好みソースに進化していった。
そして、皿を洗う手間を省き、割り箸の費用を削減するため、井畝満夫が鉄板の上でヘラを使って食べるスタイルを考案し、この独特な食べ方がたちまち人気となっていった。こうして、お好み焼は、広島県民にとってなくてはならない食べ物として広まった。誰もが近所にひいきの「マイお好み焼屋さん」を持つようになり、広島のソウルフードとしての地位を固めていった。
お好み焼みっちゃんの店舗展開
広島県には1300店程度のお好み焼店(2019年当時)があり、県民一人当たりの店数は全国一である。「お好み焼みっちゃん総本店」も現在、広島に6店舗、東京にフランチャイズで2店舗(新橋・スカイツリー)を展開している。
創業70周年を迎えた2021年(令和3年)3月3日には、創業者井畝満夫の一番弟子でお好み焼人生30有余年の上川学氏が、「二代目井畝満夫」を襲名。伝統の味を継承する体制を整えた。
おりづるタワー店は、2024年3月下旬に、平和公園の原爆ドームの向かいにオープン。連日、海外や国内からの観光客でにぎわっている。店舗入口ののれんは、戦後の屋台営業をしていた時に掲げられていたものと同じデザインののれんを掲げ、店舗内の装飾は昭和のレトロ感を演出し、戦後復興のモニュメントとして、まさに広島の復興はここから始まったのだという雰囲気を醸し出している。
来店された海外や国内の観光客は、この雰囲気の中で思い思いの具の入ったお好み焼を味わいながら、広島の復興の道、平和の喜びに、思いをはせていただいている。
お好み焼の今後の役割
上記の通り、おりづるタワー店にも海外のお客様が実にたくさんお越しいただいているが、広島市内の「お好み村」の各店を巡ると、海外の方々であふれており、驚かざるを得ない。また、国内旅行者、修学旅行生、出張で来られたビジネスマンたち、多くの方々が、広島に来たなら「お好み焼」を食べて帰らないと広島の旅の思い出が完結しないといわれ、各お好み焼店に列をなしておられる。
店をのぞくと皆さん、フウフウしながらお好み焼を口に運んでいる。そしてそこには一緒に来られた方々とのワイワイガヤガヤとした楽しい会話と笑い声、笑顔が絶えない。私たちはお好み焼を通じて、外来の方々には「思い出の提供」をするとともに、地元の方々には、広島の復興を支えた「食のシンボル」として、お好み焼を家族、仲間との「絆を高める食べ物」としてさらに広め、みんなに元気を与える応援団としての役割を果たしていきたいと考える。
私自身、学生時代は応援団活動に打ち込んできたが、今後は「お好み焼の応援団長」として、二代目で社長の上川氏と共にさらなるお好み焼の普及に努めていきたいと考えている。
「地域再生を考える」編集委員会
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