地域再生を考える

2025年4月掲載

アーケードを共につくり育てる
那覇「マチグヮー」に協働空間を創造

流通科学大学商学部 准教授 新 雅史さん

流通科学大学商学部 准教授
新 雅史さん
1973年、福岡県北九州市生まれ。東京大学人文社会系研究科博士課程(社会学)単位取得退学。専攻は産業社会学、スポーツ社会学。著書は『商店街はなぜ滅びるのかー社会・政治・経済史から探る再生の道』(光文社新書)、『「東洋の魔女」論』(イースト・プレス)。共著に『大震災後の社会学』(遠藤薫編著、講談社現代新書)、『満洲スポーツ史』(青弓社)など。
マチグヮーの屋根と記憶

沖縄・那覇市の中心部にある市場中央通り。この通りは「マチグヮー」として親しまれてきた商業地区の一部である。マチグヮーとは沖縄の方言で「市場」を意味し、戦後の復興期から地域の暮らしを支えてきた。国際通りから農連市場までつながるこのエリアでは、アーケードが商店街に強い日差しや突然の雨から商店と歩行者を守る重要な役割を果たしてきたのである。

2019年、第一牧志公設市場の建て替え工事の影響で、市場中央通りのアーケードの一部が撤去されることになった。アーケードの喪失は単なる屋根の撤去ではなく、マチグヮーの一体感や商店街としてのアイデンティティの喪失を意味していた。アーケードがなければ、夏は強い日差しに照らされ、雨が降れば客足が遠のく。多くの商店主にとって、アーケードは商売を続けるための必須条件だったのである。

学びと協働のプロセス

私は社会学者として、この問題を知った2018年から、マチグヮーの現場に関わるようになった。アーケード協議会のアドバイザーとして、通りの方々と一緒に再整備の道を模索した。協議会の佐和田会長を中心とするメンバーたちは、アーケードの再整備を実現するためにさまざまな困難に立ち向かっていった。

まず直面したのは、住民主体でアーケードの再整備を実現する方法の模索であった。アーケードは道路上の構造物であり、法規制や安全基準をクリアする必要がある。マチグヮーのような密集市街地で、現代の建築基準に適合するアーケードを建設することは極めて難しい課題であった。

さらに、コロナ禍や資材高騰による予算の問題もあった。こうした中、協議会メンバーは粘り強く対話を重ね、2020年には「マチグヮーアーケードゼミ」を開催して歴史を学び、名古屋の円頓寺商店街などの事例も視察した。また、「アーケード物語」という小冊子を発行してアーケードの歴史や意義を広く共有する活動も行った。

ひとつの屋根の下で

アーケードは、それぞれ独立して商売をしているはずの商店主たちを、ひとつの屋根の下の仲間として束ねる力を持っている。言い換えれば、マチグヮーはアーケードと共に存在するのだと訴えることで、本来個別的に営む商店主たちが、共に活動することができているのかもしれない。知らず知らずのうちに私自身も、アーケードが生み出すこの共同性に動かされていたのである。

アーケードの再整備には、地権者や店子、行政、専門家、設計者、施工業者など多様な関係者の協力が必要であった。特に地権者の同意を得ることは大きな課題であったが、ガーブ川の協同組合に関わってきた大城盛仁さんの協力を得て、少しずつ理解を広げていった。設計面では、地元の建築家である伊良波さん、金城さん、新垣さんがチームを組み、那覇市の担当者と丁寧に協議を重ねた。

そして2023年、施工業者の國場組が「マチグヮーのおばぁたちを泣かせるわけにはいかない」という思いで工事を引き受けてくれた。沖縄の戦後復興を象徴するマチグヮーを未来につなげたいという地元企業の協力があって、ようやく工事が始まることになったのである。

新たな課題と可能性

2024年8月、ついに市場中央通り第一アーケードが完成した。アーチ型のトラス構造と、柔らかな光を通すテントが特徴の新しいアーケードは、マチグヮーの風景にすっと溶け込んでいる。

しかし、アーケードの完成はゴールではなく、マチグヮーの課題解決への第一歩に過ぎない。今回再建されたのは市場中央通りのうち、わずか50メートル区間のアーケードだけである。周囲にはまだ老朽化したアーケードや建物が多く残っており、それらは現代の防火基準を満たしていない。ひとつのアーケードを現代の基準に合わせようとすると、周辺の課題が浮き彫りになるのである。

また、協議会は「まちづくりルール」の策定にも取り組み始めている。従来からマチグヮーでは、店の商品やテーブル、椅子などが道路にはみ出していることが多く、こうした「はみ出し営業」はマチグヮーのにぎわいを生み出す一方で、緊急時の通行や避難に課題がある。

アーケードは単なる屋根ではなく、マチグヮーの象徴であり、地域のコミュニティをつなぐ存在である。今回の再整備は、住民、行政、専門家、企業が協働して成し遂げた貴重な経験となった。この経験を生かして、マチグヮー全体の持続可能な更新につながる仕組みをつくることが、次の大きな課題である。

マチグヮーの歴史は、人々が協力しながら困難を乗り越えてきた歴史でもある。アーケードの再整備もまた、この伝統を受け継ぐ取り組みだったといえるだろう。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 建て替え前の市場中央通り第1アーケード

    建て替え前の市場中央通り第1アーケード

  • アーケード工事期間中の様子。お客さんが傘を差している

    アーケード工事期間中の様子。お客さんが傘を差している

  • 市場中央通り第1アーケード協議会のロゴ

    市場中央通り第1アーケード協議会のロゴ

  • 市場中央通り第1アーケード建築完了記念撮影

    市場中央通り第1アーケード建築完了記念撮影

  • アーケード完成式典でのテープカットならぬ「こんぶカット」

    アーケード完成式典でのテープカットならぬ「こんぶカット」

  • 2022年に作成した市場中央通りのまちづくりルール案

    2022年に作成した市場中央通りのまちづくりルール案

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