新潟市沼垂(ぬったり)商店街 復活の軌跡
—ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間
- 沼垂テラス商店街(株式会社テラスオフィス)統括マネージャー
高岡 はつえさん - 新潟市・沼垂出身。銀行・貿易会社勤務を経て、商店街運営会社を起業。2015年に『沼垂テラス商店街』を誕生させ、「沼ネコ焼」の考案やコワーキングスペースなどの開設、コンセプトブックの発刊などを手掛ける。同商店街は「地域再生大賞」準大賞、「2017年度グッドデザイン賞」を受賞の他「はばたく商店街30選」に選定された。
過去の繁栄からシャッター通りへ
新潟市中央区の信濃川河口近くに位置する元港町、沼垂(ぬったり)。この地域に「沼垂市場通(ぬったりいちばどお)り」と呼ばれていた場所があり、その場所が2015年に新たな商店街、『沼垂テラス商店街』として生まれ変わりました。
その昔、沼垂市場通りは200メートルほどの通り沿いにズラリと続く7棟の長屋の建物に、青果日用品を扱う小さな市(いち)がたくさん立ち並び、大変にぎわっていました。周辺には大きな工場が複数あったことから、たくさんの人々の生活を支え、娯楽も盛んな場所でした。
しかし時代が移り変わり、工場の撤退や大型店の郊外進出、高齢化などの理由で徐々に衰退、ついにこの場所は寂れたシャッター通りとなってしまい、そのまましばらく時(とき)が流れます。
小さなチャレンジがまちの復活のきっかけに
2010年、同地域で大衆居酒屋を営むひとりの店主がこのまちの未来を案じ、長屋の一角に総菜&スイーツ店を開店、それがきっかけとなり、寂れてはいるものの、どこか懐かしさを感じるこのまちの雰囲気を気に入った若者たちの出店が続きます。2011年にカフェ、2012年に陶芸工房がオープンしたのです。
1年に1店舗ずつという、とてもゆっくりとしたプロセスではありましたが、この“3年間3店舗”という動きがここ沼垂地域を大きく変化させるきっかけとなりました。
3店舗がさまざまなメディアに取り上げられたことで、この場所が注目され、出店相談が総菜店店主宛てにやってくるようになりました。「もしかしたら、今がこのまちを変えられるチャンスかもしれない…」と同店主が2014年に、まちづくりを目的とした会社を設立、銀行から融資を受け当時の長屋の所有者から建物を購入、出店者を次々と誘致し、2015年4月の『沼垂テラス商店街』の誕生につながりました。
コンセプトを掲げる
JR新潟駅から歩いて20分ほどの場所にある沼垂テラス商店街は、車社会の新潟においてけっして便利な場所ともいえず、どうしたら集客できるだろうかと考え、『ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間』というコンセプトを設定しました。ここでしか出会えないモノ、それを選び創るヒト、そのヒトたちが築き出す魅力的な空間…。専用駐車場も持たない小さな商店街においては、各店に個性を発揮してもらいファンを作り、リピーターを増やすという、そんな手法でまちの活性化を目指していきました。
主な広報手段はSNS
魅力的な店を集めることにより、ファンやリピーターが増え、情報が拡散されていく…。
私たち商店街のこれまでの主な広報手段はSNSであり、ほとんどの店主がSNSのアカウントを持ち、各店舗が活発に情報発信しています。またこの場所に魅力を感じた来街のお客様も同時に発信してくださることから、それが相乗効果となり、これまでほとんど費用をかけることなく、「#沼垂テラス商店街」は拡散され、さらなる来街に結びついたといえるかもしれません。
次なるアクション
おかげさまで2025年4月には10周年を迎えることとなる沼垂テラス商店街ですが、この間、店舗の入れ替わりはあったものの、これまでほとんど入居率100%を維持し続けています。そこで、沼垂テラス商店街と名付けた長屋の建物部分だけでなく、近隣エリアも含めた活性化を目指そうということで、2016年からは周辺の空き家・空き店舗の開発にも着手しました。
これまでゲストハウス、靴修理店、焼き菓子店、シャンプー&シェービング店、占いサロンなど、多種多様な店舗を誘致、これらを沼垂テラス商店街の仲間「沼垂テラス・エフ」(エフには“feel free”「お気軽にどうぞ」という意味が込められる)と名付け、これからも仲間を増やし、さらにまちを元気にしていきたいと思っています。
さいごに…
ひとりの小さなアクションが、大きなムーブメントにつながる…。この十数年間の歩みはまさに0(ゼロ)が1(イチ)になり、そこにたくさんのチカラが加わりさらに数字が大きくなっています。人口減少が叫ばれる中でもこの歩みを止めることなく、「自分自身が楽しみながら住み続けたい」と思える魅力的なまちづくりを継続し、さらに数字を重ねていきたいと考えています。
「地域再生を考える」編集委員会
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