空き家をなくして明かりを灯す
奈良県南部、上北山村での小さな挑戦
- モスモ
小谷 雅美さん/久米 恭子さん - 小谷雅美(写真左):地域おこし協力隊として、奈良県生駒市より奈良県上北山村に移住。久米恭子(写真右):岐阜県より、結婚を期に上北山村に移住。このふたりで、「苔と暮らしを考える」のコンセプトのもと、2022年に「モスモ」を結成。上北山村の魅力を広めるとともに、上北山村をより暮らしやすくするための活動を行う。
奈良の秘境、上北山村での日常
私たちモスモの住む上北山村は奈良県南部に位置し、紀伊半島の真ん中より少し東側、三重県との県境で四方を急峻な山に囲まれたところにあります。社会的にいうと、人口減少が進み「少子高齢化」「過疎化」というキーワードがぴったりとくる、いわゆる地方にたくさん存在する小さな自治体の一つです。
公共の交通機関はほとんどなく、山深さゆえに農業も成り立たない、住むにはいたって不便。このまま進めばなくなっていく運命なのではないか?という暗い未来しかないと思われがちなこの村ですが、実際に住む人々は、それぞれの暮らしを大切に紡ぎ、楽しくいきいきと生活しています。
「モスモ(mossumo)」の誕生
モスモのメンバーの小谷は、7年前、縁があり地域おこし協力隊として奈良県北部にある生駒市から移住してきました。時をほぼ同じくして、モスモのもう1人のメンバーの久米も、結婚を機に岐阜県より移住してきました。
小谷は協力隊の活動を通して、久米は村民団体の活動や集落支援員としての活動を通して、それぞれ村と関わり合いを持ち、村民の方々とお付き合いをさせてもらっていく中で、たいそう村が好きになり、心地よく暮らせる大切な場所だと思うようになりました。
「自分たちが楽しく村で住み続けるにはどうしたらいいか?」。その思いが行きついた先が「モスモ(mossumo)」の立ち上げにつながりました。
「mossumo」は「moss=苔」と「住む・住もう」を組み合わせた造語です。
上北山村には「大台ヶ原」というハイキングスポットがあり、日本有数の苔の美しい森が広がっています。大台ヶ原や村内の苔(moss)にどっぷりとはまり、苔の魅力を広める活動をしたい!という思い。そして、村の暮らしに興味を持った村外の人と村に住む人をつなぐ役割をしたい、「もう住んじゃえばいいんじゃない?いっそのこと」と自然と思えるようになるためのお手伝いをしたい!という思いが込められています。
村の魅力を発信し、「興味を持ってくれた方」と「村」をつなぐことが、私たちの活動の根底にあります。
甦(よみがえ)る古民家「木和田テラス」
モスモを立ち上げる、大きなきっかけとなった一つの起点に、ある空き家との出合いがあります。
村には、四つの集落がありますが、その一つで小橡(ことち)という集落のはずれに「木和田」という場所があります。急峻な山に囲まれた村の中では、比較的日当たりが良く、美しい川がすぐ目の前に広がる楽園のような場所です。十数軒の民家が建っているのですが、ほとんどが空き家です。
その一つで、もう何十年も利用しておらず朽ちていくのを待つだけの2階建ての家がありました。私たちは、集落支援員の活動を通して、村内にある空き家を目にすることがたくさんあったのですが、その中でも木和田の空き家には、なぜか強く心を引かれました。川沿いという絶好のロケーション。中に入ってみると、古い梁や建具からにじみ出るすてきな風情。「何とかしてこの家を、また利用できるようにしたい」という強い思いは、「空き家を整えて、誰か有効活用したい人にバトンを渡す仕組みを作る」というモスモの事業の骨組みとなりました。
現在、木和田で出合った空き家はモスモで整えて「木和田テラス」と名付け、日帰りキャンプや川遊び、イベントスペースなどで活用できるレンタルスペースとして運用しています。
「あの朽ち果てた家を、片付けて、いったい何するんかね?大変やろ」。当初、昔から村に住む方たちから心配されていましたが、今では「古い家も、こんなにすてきになるんやねー。すごいなぁ」と古家のポテンシャルに気付く方たちが少しずつ増えてきたように思います。
空き家の未来を紡ぐ取り組み
モスモの活動の中の空き家を整えるという事業の一環で、村内に1人で住む高齢の方の生活のお手伝いをしています。畑の草引きや、お部屋の片付けなどを一緒に行うというものです。
おしゃべりをしながら、草引きをしたり片付けをしている中で、「子どもたちはそとに出てしまって戻ってこない。この先、家をどうしたらええんかなぁ?」などと相談を受けることがあります。家に対して、持ち主がどのような思いを持っておられるか?というのを、事前に家族で共有しておくことがとても大切だと思います。
空き家を活用したくとも進まない理由としてよくあることの一つに「住んでいたおばあちゃん(もしくはおじいちゃんなど)に申し訳ないから、このまま置いておきたい」という理由で、活用を断られることがあります。しかし、使わない家はすぐに朽ちていきます。「このまま置いておく」というのは「朽ちていくのを待つ」ということではなく、住んでいた方の「こうなったらいいな」という理想に近付けていくことだと思います。「じゃぁ、どうしたいのかを息子さん、娘さんと話しとくといいねー」と、お伝えしたりします。
喜びをつないで、村に明かりを
小谷は、もともと民宿だったところをお借りして、民宿を再開させてその離れに暮らしています。近所の方から「小谷さんが住むようになって、夜に電気がついてるからほんとにうれしいわー」とよく言われます。
空き家が増えていく現状を、さみしいけれど仕方ないと受け入れながら暮らす。でも、やっぱり、明かりがつくとうれしい。小さいけれども、その「うれしい」が少しずつ積み重なることが、ゆっくりとだけれども村が元気になってゆくと信じて。私たちの挑戦は、始まったばかりです。
「地域再生を考える」編集委員会
- 団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり -
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所 - 定価2,090円(税込)/水曜社
- 団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある -
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所 - 定価2,750円(税込)/水曜社
(無断転載禁ず)