地域の暮らしを100年先へ
全国30地域以上に広がるNIPPONIA事業
- 株式会社NOTE 代表取締役
藤原 岳史さん - 1974年兵庫県丹波篠山市出身。株式会社NOTE代表取締役・一般社団法人ノオト代表理事。IT企業経験後、故郷にUターン。2010年に一般社団法人ノオトの理事に就任、2016年に株式会社NOTE創業。地域の暮らし文化を核としたまちづくり開発事業NIPPONIAを全国で展開。
NIPPONIAという活動
私たちNOTEは、全国でNIPPONIAというまちづくり開発事業を手掛けています。NIPPONIAの名前の由来は、日本を代表する鳥・トキです。一昔前まで農村の空を当たり前のように飛び交う鳥だったトキは、経済成長やそれに伴う環境の変化により一度は絶滅してしまいましたが、その後、多くの努力の下で復活を叶えました。そんなトキに、かつては日本各地で営まれていた暮らしの在り方、風景、伝統的な産業や技術など、この国に根付く貴重で価値あるものを重ね、現代社会の中ですさまじい勢いで失われていくそれらにもう一度光を当て、次の世代に伝えていく仕組みをつくっていきたい。そんな思いを込めています。
NIPPONIA事業は、町家や蔵、かやぶき民家など、昔の日本の景観を構成する歴史的建築物を、宿泊施設や店舗として再生・活用し、地域に新しい生(なりわい)業を生み出すことで、その思いを実現させています。
歴史ある建物が持つ力
明治以前より暮らしが営まれてきたような地域には、文化財に指定されていないのが不思議なほど、立派でなつかしさを感じる素敵な建物が多く残っています。一方で、さまざまな事情で誰も住まなくなり、空き家化してしまった建物も多くあります。私たちは、使われなくなってしまったそんな建物に光を灯し、もう一度地域のために新しい役割を創り出しています。
これまでNIPPONIA事業を通して全国で150棟以上の歴史的建築物を再生してきましたが、建物を改修する時に、共通して大切にしている考えがあります。それは、「きれいに直しすぎない」ことです。
私たちは快適な空間を作りたいわけではありません。その土地で営まれてきた暮らしの形、積み重ねられてきた建物の歴史を伝えることが第一の目的です。それなのに、壁を全て塗り直し、建具を現代風に変えてしまうと、建物の持つ空間の質が変わってしまい「古民家風の新築」が出来上がってしまう。家として使うのであれば快適性や利便性、安全性の追求は重要ですが、宿泊施設や店舗としての活用であれば、必要なラインさえ確保できていれば、その建築物独自の空間を維持する方が、私たちの目的を叶えるためには重要だと考えています。
また、歴史のある建物独自の空間を楽しんでくれる事業者さんが地域でお店を開いてくれると、その場所を訪れるお客さまも自然とその建物の魅力に気付き、そして何度も訪れてくれれば地域のなつかしくて、あたらしい魅力にも気付いてくれる、そんな循環が生まれていくのです。
土地の歴史と文化を掘り下げる
歴史的な建築物の活用の他に、NIPPONIA事業の核がもう一つあります。それは、その土地の歴史資源や、暮らし文化と呼ばれるものです。
私たちが対象とする地域に特別な条件はないのですが、かといってどんな地域でも展開できるわけではありません。例えば、ニュータウンと呼ばれている場所ではNIPPONIA事業に取り組むことはできません。なぜなら、私たちはその土地で営まれてきた暮らしの成り立ちをひもとくことで、その地域のまちづくりの方向性を定めるためです。
地域が持つ歴史や文化は、人が一人一人異なるように確実にオンリーワンの価値を持っています。しかし、現代では往々にしてその価値は見落とされがちです。私たちはNIPPONIA事業を通して、地域がもともと持っている価値を磨き上げ、そしてその価値を次の時代に伝え続けていくのです。
NIPPONIAが描く未来
2009年、兵庫県丹波篠山市の丸山集落という限界集落の再生事業で、NIPPONIA事業に続く最初の小さな手掛かりを得ました。その後、いろいろな挑戦と失敗、学びを経て、2015年に現在のNIPPONIA事業のフラッグシップモデルとなる「篠山城下町ホテル NIPPONIA」が開業します。その後、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」というNIPPONIA事業の理念に多くの地域が賛同してくれて、現在は全国30地域以上まで活動は広まりました。
私たちは、NIPPONIAの事業を通して、日本各地で脈々と受け継がれてきた暮らしとその歴史を、一つでも多く次の時代へとつなげていくことを目指しています。その土地に合わせて形作られてきた多様な暮らしの在り方が、次の時代の豊かさになると信じているからです。
「地域再生を考える」編集委員会
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