地域再生を考える

2024年6月掲載

城と城下町を生かした米子のまちづくり
官・民・学が共同。何もないところからの取り組み

広島工業大学工学部建築工学科 准教授 金澤 雄記さん

広島工業大学工学部建築工学科 准教授
金澤 雄記さん
1979年広島市生まれ。東京大学大学院博士課程修了後、長野県飯田市歴史研究所、米子工業高等専門学校を経て現職。史跡米子城跡整備検討委員会委員・米子の町家・町並み保存再生プロジェクト会長などを務める。『日本の名城』(デアゴスティーニ社)などを執筆中。
はじめに

米子市は鳥取市に次ぐ人口約14万人の鳥取県第二の都市である。山陰の観光地というと、近隣には鳥取砂丘や松江城、大山、境港市の水木しげるロードや、安来市の足立美術館などがあるが、米子市に対して観光地のイメージは薄いかもしれない。

現在の米子の町は、天正19(1591)年に毛利の家臣であった吉川広家が築城した米子城の城下町から発展した。米子城は2基の大小天守がそびえる優美な近世城郭であったが、明治初期の廃城令によって建物はすべて取り壊され、現在は本丸と二の丸の石垣だけが残っている。また城下町には、戦災や大きな自然災害、都市開発がなかったため、約700棟の町家が残っている。

これら手つかずの米子城跡と城下町の町家群を、歴史的文化価値を損なわずに利活用し、まちづくりに生かすことがこの10年の取り組みであった。近年、空前の城ブームで天守の復元などに注目が集まるが、城があれば城下町もあるわけであるから、城と城下町をセットで、かつ行政と市民団体と研究機関が一体となって何もないところからまちづくりを考えようとした試みである。

米子城の取り組み

10年ほど前の米子城跡は、雑木に埋もれた古城であったが、まずは石垣の上に建っていた天守や御殿がどのような建物であったかを研究することから始まった。米子城には明治時代の取り壊し前に撮影された古写真や、幕末に修理した際の設計図が残っていたため、2基の天守をある程度正確に復元することができた。そこで実際に建てるかはともかく、まずは視覚的に理解しやすいVRを制作し、地域学習や観光利用に役立てた。

同時に米子市により城跡の保存整備も始まった。まずは発掘調査によって、埋もれた石垣や建物跡が発見され、城の全容が徐々に明らかとなった。また山頂の繁茂した雑木を伐採し、大山や日本海などが360度見渡せる絶景の城となった。

また市民団体「夢蔵プロジェクト」により定期的な石垣の草刈りが行われ、ライトアップなどを行うことで市民に親しまれる城となった。

こうした地道な活動が目に留まり、2022年元日の某テレビ番組では絶景の最強の城に選ばれることとなり、全国的に米子城が知れ渡ることとなった。現在では元旦には初日の出を、春と秋には大山に日の出が重なるダイヤモンド大山を見るためのスポットとして多くの市民が城に集まるようになった。

米子城下町の取り組み

さらに米子城の城下町には町家(町屋)と呼ぶ商家が残っている。商家の集まる町人町は現在、商店街となっているが、空き家や取り壊しといった問題もある。町家とは、道に面したミセの空間で生業を営み、奥を生活空間とする家屋のことである。米子の城下町には明治時代から大正時代に建築された町家が多く残っており、江戸時代から続く城下町の風情が感じられる。

これらの町家や町並みを保存・再生することを目的として、2013年に「米子の町家・町並み保存再生プロジェクト」を立ち上げ、まずは町家の現状や特徴を調べ、文化的価値を見いだすことから始めた。2018年には実際に町家を改修して利活用しようということで、県などの補助金を活用しながらセルフビルドで空き家を改修し、コミュニティ施設として活用を図った。

その他にも米子にはまちづくりの市民団体がいくつか存在する。2003年から活動する「米子建築塾」では、旧城下町の空き家に芸術家が短期間住み込み、芸術活動を行う「AIR475」(アーティスト・イン・レジデンス米子)の活動を行っている。また2007年から活動する「まちなかこもんず」では、空き家バンク事業や、空き家をシェアハウスやコミュニティスペース、ゲストハウスなどに改修する取り組みを行っている。「よなごの宝88選実行委員会」では、小路や道標、地域に埋もれている宝を掘り起こし、見学会などを企画している。

各団体の守備範囲や活動の得意分野が異なることから、2015年から年に一度「まちづくり交流会」を開催し、市民参加のもとお互いの活動報告や情報交換を行い、横のつながりを図っている。

また近年では、特徴ある町家を文化財登録することにより保存を促し、また行政による保存活用のための補助金制度を設けるなど、公の動きもある。

おわりに

この10年で米子は町の雰囲気が大きく変わった。うっそうとした米子城跡は城跡公園として整備され、まちなかから山頂本丸の石垣が見えるようになった。戦後に設けられた商店街のアーケードはすべて撤去され、広場化された明るい商店街へと変わりつつある。空き家の町家も活用が試みられている。岡山と山陰を結ぶ「やくも」の車両も新しくなった。ぜひに米子に足を運んでほしい。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 城下町の風情が残る町並み

    城下町の風情が残る町並み

  • 大泉洋さんが出演する製作元のTOPPANのCMでもおなじみの米子城の復元VR。ストリートミュージアムのアプリをダウンロードし現地に行くと見ることができる

    大泉洋さんが出演する製作元のTOPPANのCMでもおなじみの米子城の復元VR。ストリートミュージアムのアプリをダウンロードし現地に行くと見ることができる

  • 市民や学生を交えての米子城跡の草刈り

    市民や学生を交えての米子城跡の草刈り

  • 毎年元旦に500名ほどの市民が米子城の天守台から初日の出を見に早朝5時頃から集まる

    毎年元旦に500名ほどの市民が米子城の天守台から初日の出を見に早朝5時頃から集まる

  • 米子城の外堀でもある加茂川を水運として利用したため、山陰の大阪と呼ばれるほど商業の町として発展した。右は重要文化財の後藤家住宅

    米子城の外堀でもある加茂川を水運として利用したため、山陰の大阪と呼ばれるほど商業の町として発展した。右は重要文化財の後藤家住宅

  • 米子高専の学生とともに行った空き家の町家の改修。現在は文化財登録され、まちなか観光案内所として利用。イベント会場や朝市など地域住民も利用する

    米子高専の学生とともに行った空き家の町家の改修。現在は文化財登録され、まちなか観光案内所として利用。イベント会場や朝市など地域住民も利用する

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