地域再生を考える

2024年2月掲載

人口減少に挑む小規模自治体の取り組み
~人の取り合いから地域経済を強くする戦略へ~

株式会社ローカルファースト研究所 代表取締役 関 幸子さん

株式会社ローカルファースト研究所 代表取締役
関 幸子さん
三鷹市役所にて27年間地方行政に携わる。2010年ローカルファースト研究所を設立。代表取締役に就任し、地方自治体の支援を行う。東洋大学大学院経済学研究科客員教授、経済産業省産業構造審議会地域経済産業分科会委員、内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員等を務める。
進む人口減少。政府や自治体の取り組み

コロナ後日本の出生数が激減していることをご存じでしょうか。団塊ジュニアが生まれた1971年の出生数は、約200万人でしたが、2022年には約77万人、23年は約73万人となり、1971年と比較すると64%も減少しています。今のままでいくと2100年には、日本の人口は約6000万人にまで縮小します。

こうした、人口構造の大きな変化に対応するために、日本政府は2014年に「まち・ひと・しごと創生法」を制定して、①地域に仕事をつくる②地方へ人の流れをつくる③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる④人が集う、安心して暮らす魅力的な地域をつくるという4つの目標を掲げ、全国の地方自治体では、地方版「総合戦略」を策定し、地方創生に取り組んできました。

これまでの戦略は、人口が集中する都心から、人口を移転させる「人口増加作戦」でしたが、少子化の動きが速いこともあって、昨年からは都心から奪い取るという作戦から「自らが強くなる」戦略に方向転換し始めています。

一方で全国にある約1720の自治体のうち、人口1万人未満の小規模自治体が512もあり、このまま人口減少が続くと、地域が消滅するという危機的な状況にあります。

私は現在、地方創生推進事務局の地方創生アドバイザーとして、こうした小規模自治体と並走しながら、具体的な事業を創り出すお手伝いをしてきました。そのなかで、人口減少に真正面から挑んでいる小さい町と村をご紹介しましょう。

「鳥取県江府(こうふ)町」の官民連携によるまちづくり

人口最少県の鳥取県で最も人口が少ない町が鳥取県江府町です。霊山「大山(だいせん)」の南麓と岡山県との県境にあり、ブナ原生林、水資源が豊富で、サントリーの「水」の西日本地区の水源となっています。

今年の1月の人口は、2406人となり1995年のピーク時の人口4316人の半減となってしまいました。特に、若者や子育てファミリー層の流出が多く、その要因は、町内に生鮮三品を購入できる商業店舗がないことや、空き家が100軒以上あるにも関わらず子育て世帯向けの良好な住宅を提供できないことにありました。

そこで、白石祐治町長は、移住定住者向け住宅と商業機能、コミュニティ交流機能等を持つ総合的な地域整備を進めてきました。佐川地区に5000㎡の土地を求め、PPP(Public Private Partnership)手法にて、公募で決定した合人社グループと共に、国土交通省の地域優良賃貸住宅制度を活用してオール電化住宅12戸を整備。すでに8割の入居者が決定しています。商業施設等は、内閣府の地方創生推進交付金を活用して、この3月に生鮮三品も販売するコンビニがオープン予定です。

この拠点整備によって、人口流出から一気に人口流入へと流れが変わり、子育てするなら江府町というイメージが地域に広まりました。今後も江府町は、民間企業と連携して、住宅整備を進め、人の流れをさらに大きくする予定です。

「岡山県新庄村」村民一家族による自立をめざす

岡山県は「晴れの国」というイメージがありますが、県北にある新庄村は、毛無山(けなしがせん)を主峰とした1000m級の美しい連山に囲まれ、平均気温は11℃と低く、降雪期は12月から3月まで続く寒村です。古くは山陰と山陽をつなぐ出雲街道の宿場町として栄え、現在もそこで人々の生活が営まれながらも当時の面影を残しています。

新庄村の人口は、1980年の1357人をピークに減少を続け、2023年は745人で、2065年には412人にまで落ち込むと推計されています。

2014年の地方創生が動き出してから、小倉博俊村長が、「小さくても自主自立をめざす新庄村」宣言を行い、「村民一家族」を旗頭に据え、村民全員でのまちづくり、子どもを見守り育てていく決意を表明しました。

最初の事業として、2015年に古民家を改造してコワーキングスペースを整備しました。雪で閉ざされた時期が長いので、農家や主婦の副業を促進するためのオフィスです。ITスキル研修の実施と、岡山県津山市や東京のIT企業から仕事を受注して、複数の収入源を確保しています。現在テレワーカーの方々は30代、40代の女性がメインで30人が育ってきました。

加えて、築100年の医者が住んでいた古民家を、大きな梁や大黒柱を生かしながら、水回りを最新設備にするなど、モダンな宿に再生しました。その名は「須貝邸」。以前の医者の名前をそのまま生かして名づけられました。1日限定2組という小さな宿で、特徴は、何といっても新庄村出身の若き料理長の三鴨裕太氏が作る料理。地元新庄村の食材にこだわった献立は、リピーターのお客様が続出するほどのおいしさです。旅館の予約サイトでも、1泊(2名)で約6万円ですが、予約が取れない宿として有名になっています。皆様もぜひ一度ご訪問いただき、1000人の村を応援ください。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 【鳥取県江府町】官民連携で整備した賃貸住宅「佐川第2団地」。写真上は3LDKのファミリー向け、写真下は3LDKの車いす対応の戸建て住宅(右)と1LDKの単身者用の集合住宅(左)

    【鳥取県江府町】官民連携で整備した賃貸住宅「佐川第2団地」。写真上は3LDKのファミリー向け、写真下は3LDKの車いす対応の戸建て住宅(右)と1LDKの単身者用の集合住宅(左)

  • 【岡山県新庄村】古民家を改造した「咲蔵家.」

    【岡山県新庄村】古民家を改造した「咲蔵家.」

  • 「咲蔵家.」にはコワーキングスペースを整備

    「咲蔵家.」にはコワーキングスペースを整備

  • 【岡山県新庄村】医者が住んでいた築100年の古民家を再生した宿「須貝邸」

    【岡山県新庄村】医者が住んでいた築100年の古民家を再生した宿「須貝邸」

  • 「須貝邸」の若き料理長 三鴨裕太氏

    「須貝邸」の若き料理長 三鴨裕太氏

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価2,090円(税込)/水曜社

団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所
定価2,750円(税込)/水曜社

(無断転載禁ず)

地域再生を考える

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP