地域再生を考える

2024年1月掲載

今あるもので、ここにしかない景色を
「人々は元気に」「地域は活気づく」関係を築く

株式会社プラスニューオフィス 一級建築士事務所 瀬戸 健似さん・近藤 創順さん・今井 裕久さん

株式会社プラスニューオフィス 一級建築士事務所
瀬戸 健似さん・近藤 創順さん・今井 裕久さん
代表取締役 瀬戸 健似さん(写真中央)。新潟県五泉市生まれ、日本大学大学院修了、法政大学・日本大学・武蔵野大学非常勤講師。
取締役 近藤 創順さん(写真右)。新潟県五泉市生まれ、日本大学大学院修了、日本大学非常勤講師。
プロデューサー 今井 裕久さん(写真左)。静岡県生まれ埼玉県育ち、法政大学大学院修了、法政大学非常勤講師。
地域との関わりをつくった「ゆいま~る」

私たちと地域の関わりは、2008年夏に栃木県那須町で計画された高齢者のための終(つい)の棲家(すみか)「ゆいま~る那須」のコンペで選定されたところから始まりました。設計段階から入居希望者とワークショップを30回以上行い、みんなで話し合って理想の住まいが設計できました。入居者同士の交流が育める共用室では、地域の方々を招いて多様な活動が行われ、食堂では地元で取れた野菜やパンが販売されるなど地域とのつながりが強くなりました。このプロジェクトは地方創生のモデルプロジェクトとしても位置付けられており、他地域から高齢者が移り住むことで地域が再生される好事例です。

その後、東京都日野市でUR都市機構の古くなった低層の団地を高齢者の住まいにリノベーションした「ゆいま~る多摩平の森」、過疎化が進む北海道厚沢部町の中心地に、地域コミュニティを育む場所として街に開放した高齢者施設「ゆいま~る厚沢部」、東京都板橋区の高島平のマンモス団地で空き住戸を高齢者住宅にリノベーションした「ゆいま~る高島平」の設計に関わりました。

地域にも開放した大学連携型CCRC施設

桜美林大学と協働して、東京都町田市の郊外に、高齢者・学生・ファミリーの住棟と地域に開放するレストランや交流施設などを大学の敷地内に計画したプロジェクト、大学連携型CCRC施設「桜美林ガーデンヒルズ」の設計にも携わりました。この場所を中心に地域の人々のための新たな居場所にもなるよう敷地のあちこちに「たまり」を散りばめ、敷地中央には街の道路を引き込むような大きな「みち」を通し、地域の方々が気軽に入りやすいようにしました。この「たまり」や「みち」を中心として交流施設やレストランでは地域のイベントや催し物も開催され、地域との強いつながりが生まれています。

今あるもので、ここにしかない景色をつくる実践的なまちづくりへ

数年前から静岡県伊豆の国市では、伊豆長岡温泉で、閉館した温泉旅館や地域資源を活用し、官民が連携してまちづくりに継続的に取り組んでいます。毎月開催される地域主導のマルシェ「お散歩市」をサポートし、地元野菜や手仕事品の販売、障がい者福祉団体等と連携した商品・雇用の場づくり、古紙回収によるトイレットペーパーの商品化、古食器や浴衣、古本のリサイクルなど、SDGsを意識した実践的なまちづくりを展開しています。

この取り組みは100年後も続く「お湯のある暮らし」という「伊豆長岡温泉未来ビジョン」に引き継がれ、国土交通省が推進する「官民連携まちなか再生推進事業」の採択を受け、皆が集まる会議体「伊豆長岡温泉ミライ会議」の発足につながりました。私たちはこの会議体の事務局となり、行政や地域住民・事業者に加え、複数の大学や地元高校の学生たちと地域の担い手となるまちづくり組織「(一社)伊豆長岡温泉エリアマネジメント」の設立につなげました。

「今あるもので、ここにしかない景色をつくる」を意識し、廃屋だった「さかなや旅館」をまちづくり会社で取得し、分散型宿泊施設「さかなやステイ」と豆腐カフェ「+SOY」、多目的広場兼駐車場「ミライ広場」などから成る複合施設「いずなかビレッジ」として再生し、官民連携による実践的なまちづくりを加速しています。

地域に建つ全世代・全員活躍を目指したCCAC施設

福島県伊達市高子では、新たな地方創生モデルとして全世代・全員活躍のコミュニティによる世代循環型のまちづくり「アップデートシティふくしま ソラチエ」に関わりました。新たな生涯活躍のまちのコンセプトCCAC(Continuing Care Active Community)を掲げ、伊達市や地元事業者からなる「地域再生推進法人」の立ち上げ支援や、自分らしく暮らせるまちづくりを支援し、拠点となるCCAC施設(交流施設とお試し居住施設)の設計に携わりました。自然豊かな地域資源を活用し「農業」・「福祉」・「健幸」を基軸とした多世代交流を拠点施設で深め、「人・もの・産業」をつなぐことで、新しい価値を育み、全世代・全員活躍のコミュニティによる新しい循環型まちづくりを進めています。

地域のための新しい子どもたちの居場所

新潟県見附市のまちの中心にある2階建ての商業施設をコンバージョンし、子どもの居場所をつくりました。主に小学校高学年の児童が放課後や休日に利用できる屋内施設で、遊びや学びなどを通して自発的に育ちあうことができ、異年齢同士や学校区の異なる子ども同士での交流が図れる居場所です。私たちは遊びと学びという動と静の空間を壁で仕切るのではなく、流動的で回遊性のある一室空間を提案し、思い思いの時間を過ごせる場を設計しました。子どもたちが主の場所ですが、見守りやイベント・各種の教室などに地域住民が関わることで、新たな地域住民の交流を生む、地域の交流拠点となることを視野に入れ計画しました。

さいごに

これらのプロジェクトを通して共通して実現したことは、その地域の人々とも一緒に楽しめるアクティビティとそのための場所を合わせてつくったことです。「人々は元気になる」「地域は活気づく」という関係が築けており、地域の再生には人と人とのつながりがとても大事なのだと強く感じています。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 「ゆいま~る那須」(撮影者:新澤一平)

    「ゆいま~る那須」(撮影者:新澤一平)

  • 「ゆいま~る厚沢部」(撮影者:新澤一平)

    「ゆいま~る厚沢部」(撮影者:新澤一平)

  • 「桜美林ガーデンヒルズ」地域のお祭りに開放した時の様子

    「桜美林ガーデンヒルズ」地域のお祭りに開放した時の様子

  • 伊豆の国市で、毎月開催されるお散歩市の様子(撮影者:山田薫)

    伊豆の国市で、毎月開催されるお散歩市の様子(撮影者:山田薫)

  • 伊達市高子で、毎月開催されるマルシェの様子(撮影者:伊賀本寿徳)

    伊達市高子で、毎月開催されるマルシェの様子(撮影者:伊賀本寿徳)

  • 子どもが放課後や休日に利用できる、見附市の屋内施設。オープニングイベント開催時の様子

    子どもが放課後や休日に利用できる、見附市の屋内施設。オープニングイベント開催時の様子

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