地域再生を考える

2023年9月掲載

読みたい気持ちに応えるために
格差のない読書機会を享受できる北海道へ

一般社団法人北海道ブックシェアリング代表理事 荒井 宏明さん

一般社団法人北海道ブックシェアリング代表理事
荒井 宏明さん
1963年北海道北見市生まれ。書店員、新聞記者、編集事務所経営などを経て現職。ほかに札幌大谷大学と東海大学札幌キャンパスで講師を務める。専門分野はシティズンシップ、ボランティア論など。北海道子ども読書活動推進会議委員(2014年~)。
北海道の読書環境の現状

「だれもが豊かな読書機会を享受できる社会に」を合言葉に2008年、札幌市内の図書や教育の関係者とともに北海道ブックシェアリングを設立。「予算不足で図書の更新がままならないという小規模図書施設の増加をなんとかしよう」という思いであった。札幌市教育委員会と協働で「読み終えた本を回収し、図書の不足や老朽化などに悩む施設や団体に無償提供する」という小規模な活動を始めたところ、全道各地から問い合わせが相次ぎ、瞬く間に活動の規模が広がった。そこで初めて「読書環境の悪化は北海道全体の課題であり、地方に行くほど深刻である」という現状に気づいたのだ。

北海道の読書環境をみると、公共図書館の設置率の低さが特徴的といえる。179自治体のうち、公共図書館を設置しているのは108自治体であり、設置率は60.3%と全国平均の77%を大きく下回る。加えて北海道の自治体の平均面積は全国平均の倍以上であり、他府県に比べると「図書との接点」が格段に確保しづらい状況といえる。また近年相次ぐ書店の閉店に伴い、現在、北海道では約4割が「ゼロ書店自治体」である。

そのなかで公平な読書機会を支えるセーフティーネットとして機能するはずの学校図書館の状況も厳しい。小学校の学校司書の配置状況は24.8%(全国平均は69.1%)で全国ワースト3位、中学校は33.9%(同65.9%)でワースト8位である。図書整備では、児童生徒数に見合った蔵書数として文部科学省が提示する「学校図書館図書標準」を達成しているのは小学校49.4%(ワースト5位)、中学校48.8%(ワースト8位)である。とりわけ懸念されるのが「新刊図書の購入予算の措置」で、同省が2007年に実施した「学校図書館図書関係予算措置状況調べ」では、北海道の学校図書予算の措置率は小学校45.7%、中学校40.8%と本来の予算の半分以下の措置で、全国ワースト2位だ。その後、同様の調査は行われていないが、学校図書館の関係者の多くは「状況は変わらないか、もしくは悪化している」と話す。

一方、北海道の小中学生の読書意欲は全国平均を超えている。つまり、ちまたでいう「子どもたちの活字離れ」というものは生じておらず、「読書意欲に応えようとしない大人の問題」があるだけなのだ。

「読みたい」に応える事業

本会はこれらの課題に向き合いながら①ブックシェアリング事業②北海道学校図書館づくりサポートセンター運営事業③学校図書館アドバイザー派遣事業を3つの主要事業に取り組んでいる。

ブックシェアリング事業では、これまでの13年間で約800施設・団体に、延べ約7万5000冊を無償提供してきた。読み終えた本は郵送してもらうほか、週に一度、各家庭まで引き取りに回る。また北海道立図書館や若者活動センターなどの協力で7つの収集スポットを設けている。集まった本は「札幌市図書再活用ネットワークセンター」(厚別区)に持ち込み、毎週土曜の定期活動に集まる10~15名のボランティアスタッフが一冊一冊の状態を点検し、ジャンルごとに分類して書架に並べる。センターには常時、2万冊以上の本が並ぶ。図書を必要とする団体はセンターを訪れ、棚から必要な本を自由に選び、そのまま持ち帰ることができる。提供の上限は1団体120冊、図書コーナーの新設や蔵書の総入れ替えなどの場合は240冊まで選ぶことができる。利用する施設・団体は小中学校のほか、放課後教室や子ども食堂などさまざまだ。

北海道学校図書館づくりサポートセンターは2020年4月に江別市内に開館した国内唯一のNPOによる学校図書館支援施設である。利用者の希望に合わせて随時開館し、司書教諭、学校司書、図書ボランティアのほか図書の関係者ならだれでも無料で利用できる。機能は①学校図書館向けの見本図書約2500冊の常設展示②管理システムのデモ展示③情報のデータの提供など、学校図書館づくりに関わる全般に対応している。

そして近年力を入れているのが、学校図書館アドバイザー派遣事業である。学校図書館の重要性は認識しつつも、学校図書館専門職員(学校司書など)を配置する余裕がない学校が道内には数多くある。選書や展示、廃棄、運営などについて教えてほしいという教育委員会や学校、PTAなどの要請に応じて年間30~40校にアドバイザーとして訪問する。

これら3事業も含め、本会のすべてのサービスは無償で行っている。本会の財源は主に寄付とバザーであり、活動の規模はその多寡で決まる。残念ながらこれがNPO活動の限界でもある。このような社会教育活動は行政がやるものと思われがちだが、縦割り行政のなかで「読書環境の整備」は取り組みづらい分野である。その分「NPOだからできる」というケースは数多く、今後も北海道の「読みたい気持ち」に応える活動を積極的に進めていきたいと考えている。

「地域再生を考える」編集委員会

  • いつも和気あいあいのボランティア会メンバー。大学生から70代まで幅広い年代が集まる

    いつも和気あいあいのボランティア会メンバー。大学生から70代まで幅広い年代が集まる

  • 毎週土曜の定期活動では、集まった本をクリーニングし、分類して棚に並べていく

    毎週土曜の定期活動では、集まった本をクリーニングし、分類して棚に並べていく

  • 本会が運営する「北海道学校図書館づくりサポートセンター」には、最新の学校図書館用見本図書が並ぶ

    本会が運営する「北海道学校図書館づくりサポートセンター」には、最新の学校図書館用見本図書が並ぶ

  • 毎月最終土曜は江別市大麻銀座商店街で「ブックストリート」を開催し、古書バザーを運営しながら地域交流を促進している

    毎月最終土曜は江別市大麻銀座商店街で「ブックストリート」を開催し、古書バザーを運営しながら地域交流を促進している

  • 東日本大震災の際に被災地に分室を設けて支援したことから、現在も災害・防災関連書籍を収集して道内各地で展示している

    東日本大震災の際に被災地に分室を設けて支援したことから、現在も災害・防災関連書籍を収集して道内各地で展示している

  • 毎年数回、絵本の交換会を実施。会場は本好きの親子でにぎわう

    毎年数回、絵本の交換会を実施。会場は本好きの親子でにぎわう

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