地域再生を考える

2023年8月掲載

生の落語を届ける「子どもだけ寄席」
「教育」から「共育」の時代へ

落語家 桂 福丸さん

落語家
桂 福丸さん
1978年神戸市生まれ。京都大学法学部卒。2007年2月、4代目桂福團治に入門。21年より、小学生向けの落語会「子どもだけ寄席」を開始。17年度 文化庁芸術祭 大衆芸能部門新人賞ほか複数の賞を受賞。テレビや各地の落語会、講演会に出演中。
コロナによって、地域の力は「子どもたち」であると再認識

2020年の新型コロナウイルスの影響により、世界が大きく変わりました。「全国一斉休校」により突如1カ月以上も子どもたちが家にずっといることになり、働く保護者の方たちは大変な思いをされたと思います。

私にも2人の子どもがおります。コロナによってわれわれ舞台人は数カ月ほとんど仕事がなくなったのですが、それ以上に、子どもたちの将来への影響を考えざるを得ませんでした。子どもにとっての栄養は、勉強だけではありません。人と触れ合い、外に出てさまざまな体験をすることが、豊かな感性を育みます。約2年にわたり、人との触れ合いを制限され、運動会や課外学習、地域のお祭りなどほとんどがなくなった子どもたちは、それまでと比べおとなしく、伸び伸びしていないように見えました。

そのことは、地域へも大きな影響を与えたと思います。子どもたちが行きかい、笑い声を上げることが普通であった日常、子どもたちのためにイベントを準備し、屋台の店番をしながら子どもたちと触れ合っていたお年寄り。これらがなくなったことで、地域の元気さも減ったように感じました。子どもの笑顔は大人を笑顔にし、また、ひいては地域を笑顔にするという、それまで当たり前だったことが、コロナによって再認識されたと思います。

自分にできることは「落語を子どもたちに届けること」

そんな中、改めて自分の仕事と社会のつながりを考えました。今、自分にできることは何なのか。そこで出た答えが「落語を子どもたちに届ける」ということでした。コロナであらゆる人と人との触れ合いが規制されている中だからこそ、生の落語を子どもたちに届けるということを思いついたのです。

「大人」は、来年も再来年も「大人」です。今年なかった飲み会は来年やればそれでいい。ただ、「〇年生」というのは一生に一度しかありません。コロナの真っただ中、「〇年生」だった子どもたちは、その年の「運動会」「課外学習」がなくなり、それはコロナが収まったら2回やってくれる、ということはなく、穴があいたままなのです。

「子どもだけ寄席」の誕生

その思いから生まれたのが「桂福丸の子どもだけ寄席」です。これは本格的な劇場で、「小学生だけが入れる」落語会です。ひとり300円で約90分間、プロの落語や演芸を観ることができます。開始以来約3年、長期休暇(春休み、夏休み、冬休み)ごとに、大阪と東京を中心に開催しています。落語は言葉を聴き、頭の中で絵を想像します。知らない間に数十分間、人の話を集中して聴くことになり、想像力と集中力が楽しく身に付きます。また、そこで楽しさを覚えると、知らない世界に踏み出すことが楽しいという知的好奇心の養成にもなります。

プロが出演する本格的な会のため、実は300円の入場料では経費が賄えないので、応援会員制度をつくり、継続する力をつけようとがんばっています。2~30年かけて、全国で開催できるようにするのが目標です。(応援会員募集中です!笑)

子どもたちは、保護者や先生がいないため、トイレひとつ行くのも、場所を探したり係の人に聞いたりしなくてはなりません。席の番号通りに座れるか、これから何が始まるのか、すべてがドキドキです。しかし、それらを自分自身で体験することで、自主性を育むことができます。幕が上がると子どもたちは大歓声、毎回最高の盛り上がりで落語を聴いてくれています。

表で対応していると、おうちによって保護者の方と子どもとの関係は千差万別。ある保護者の方はずっとつきっきりで「入ったらまずトイレを確認して、始まる前に絶対行っておくのよ。水筒のお茶は3回は飲みなさい…」などなど細かく指示を出します。その不安そうな顔を見ていると、子どもも「なんか怖いところに入るのかな…」となんとなく不安そうです。ところが終演後は、子どもたちの顔が全く違います。全身で楽しさを表現し、出口で待っている保護者の方へ飛びついていく姿を見ていると、本当にやって良かったと思います。

子どもと地域、感謝の循環をつくる

手伝ってくれる人たちも、それぞれがお子さんをお持ちだったり、また中学生の子どもが受付に立ってくれることもあります。「桂福丸の子どもだけ寄席」は、「子ども食堂」の文化芸術版です。地域の大人が地域の子どもを支え、地域の子どもは「この町に生まれて良かった」と感じます。そして、子どもたちの笑顔を見た地域の大人たちも幸せになります。そこに感謝の循環が生まれます。

子どものおかげで大人が育つ。教育から共育へ

とにかく根底にあるのは「子どもたちと本気で遊ぶと楽しい」ということです。私は、小さい知らない子とでも、何時間でも遊べる自信があります。子どもたちは大人の「肩書」「実績」など何も気にしません。また、「これは意義のあることだから」という言葉もあまり響きません。子どもたちはもっと本質的な感性を持っています。彼らが感じるのは「大人が本気で子どもに向かっているか」と、「大人のありのままの人間力」です。子どもたちの反応はそのまま、私たち自身の人間の大きさを表しているといえるでしょう。

子どもを鏡にして大人が育つ。そして地域が育つ。教え学ばせる「教育」から、共に育つ「共育」の時代へ。その最先端が「地域」であり、子どもを地域の中心に据えることで、日本が再び元気を取り戻すことができると信じます。私も未熟ながら、子どもたちからこれからも学び続けていきたいと思っています。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 「子どもだけ寄席」の様子

    「子どもだけ寄席」の様子

  • 子どもたちは舞台に興味しんしん

    子どもたちは舞台に興味しんしん

  • 落語の楽しさを伝えるラクゴニンジャも登場

    落語の楽しさを伝えるラクゴニンジャも登場

  • 日本の伝統的な太神楽曲芸も

    日本の伝統的な太神楽曲芸も

  • 地域の学校での出張公演も行っている

    地域の学校での出張公演も行っている

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