地域再生を考える

2023年3月掲載

「好き」から始まる服づくり
石徹白(いとしろ)の地に伝わる衣を学び現代へ

石徹白洋品店店主 平野 馨生里さん

石徹白洋品店店主
平野 馨生里さん
岐阜市生まれ。岐阜の山奥の集落「石徹白」に2011年に移住し、地域に伝わる農作業ズボンをリデザインした商品を制作・販売。植物を育てたり採取するところから藍染・草木染めを行う。2022年地域再生大賞準大賞受賞。

そもそも私がここで服を作る理由はただ一つ。それは、この地域が好きだから。この地域がこれからも続いていくために、小さなことだけれど私ができることをやっていきたい。そんな思いで「石徹白洋品店」を経営しています。

石徹白は岐阜県郡上市の小さな一つの集落で、現在、人口約220人が暮らしています。私は、この土地に伝わる「たつけ」という農作業ズボンの作り方を地元のおばあちゃんに教えてもらい、現代の暮らしに取り入れられるようにリデザインをして制作・販売をしています。周りの草木を採取して行う草木染めや、藍の葉っぱを畑で栽培するところから藍染も行っています。

元々馬小屋だった自宅内のスペースをギャラリーにして古い写真や道具・服を展示し、隣に増築した藍小屋で染めをして、そのまた隣の古材を活用した在来工法による新築店舗にて服の販売をしています。

和服と洋服

服の企画は、お年寄りから古い服を見せてもらい、お話を聞かせてもらうところから始まります。昔の服は今私たちが着ている洋服とは全く異なります。石徹白だけではなく、日本全国どこでもそうですが、昔は日本人は「和服」を着ていました。35センチほどの着尺幅といわれる着物や浴衣を仕立てる幅の狭い布を使って、端切れの出ない無駄のない作り方で服は家庭ごとに自給されてきました。

一方、洋服は人の体を美しく見せるため、あるいは動きやすくするために、体の丸みに沿ってカーブで描かれ、布もカーブで断ちます。だからどうしても端切れが出てそれがゴミになります。服飾専門学校で服作りを学んでいた当時、私は「服を作る=ゴミを作る」という認識に至り、服を作ることにジレンマを感じていました。

おばあちゃんに教えてもらった「たつけ」

私は、石徹白でお年寄りにお話を聞く中で「たつけ」というズボンの存在を知りました。そして昭和8年生まれの石徹白小枝子さんに作り方を教えてもらうと、全く布に無駄がなく、パズルのように組み立てていく工程に目から鱗(うろこ)が落ちるばかり。しかも出来上がった「たつけ」があまりにも楽で動きやすいズボンで、これまではいていた洋服のズボンがいかに窮屈だったかを知りました。

この経験を経て、私は「たつけ」をはじめとする、石徹白で伝わってきた古くからの服を現代生活に取り入れることは、とても大切なことだと感じています。

この土地に学ぶ

服を作ることについて、私が大切にしていることは、“石徹白だからできることを実践すること”。そうでなければ、この土地でやる意味は薄れるし、継続できないと考えるからです。

石徹白だからできることの一つは、やはり、この土地で伝わる衣を学び、現代に生かすこと。地域の人との交流の中で、彼らがつないできたものを学ばせていただく。服の寸法やどんな布で作ったかなどの物理的なものももちろんですが、それ以上に私が興味を抱くのは、それを使っていた時代の暮らしぶり、そこで先人らが感じたこと、抱えていた感情などの心の部分。商品を生み出すための勉強でもあるけれど、それ以上に、こうして心を通わせてお話を伺う時間はとても豊かで幸せに満ちています。だから私は、ただ単に彼らに学んだ服を作り販売するのではなく、その背景にある心を伝えていきたいと思っています。

周りの草木花で染める

この土地だからできること。もう一つは、周りの植物から色をいただくことです。畑で栽培した藍で藍染をすること、周りの草花を集めて草木染めをすること。それはとても手間がかかり大量に生産することもできませんが、ここだから、私たちだからこそ出せる色があります。天候に左右され毎年同じ色は出せなくて、工業製品の服と並べられないことがデメリットではなくて、むしろメリットであると胸を張って言えるような美しさを表現したいと努力を重ねています。そしてこれについても、この土地の植物と関わることが、自然の中で体を使って生きている実感となり、その恵みを色としていただくことが大きな喜びとなります。作り手としての充足感をこんなにも感じることができて、本当に幸せな仕事です。

実現したいこと

この仕事を通じて、私には実現したいことがあります。それは、石徹白洋品店の服を通じて石徹白という地域のことを知ってくださる人が増え、その中の一部の方でも石徹白に興味を抱いたり移住をしようと考えたり、あるいは、私たちと共に服作りをしてくださる人が出てくること。そう、この地がこれからも続いていくために必要なのは、ここに住む人、この土地と関わる人なのです。

小さな会社の小さな事業ですが、私の石徹白への「好き」をいっぱい詰め込んで、共感する人々との輪を広げていけたら…。それがこの土地の明るい未来につながっていくことと信じて。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 白山の麓にある石徹白集落

    白山の麓にある石徹白集落

  • 石徹白洋品店本店。右側が藍小屋

    石徹白洋品店本店。右側が藍小屋

  • 本店の中の様子

    本店の中の様子

  • 元馬小屋のギャラリー

    元馬小屋のギャラリー

  • 地元のおばあちゃんに学ぶ

    地元のおばあちゃんに学ぶ

  • 「たつけ」とその裁断図。全て直線で裁断することによって、布の無駄が全くないことが特徴

    「たつけ」とその裁断図。全て直線で裁断することによって、布の無駄が全くないことが特徴

  • 藍染をしている様子

    藍染をしている様子

  • 周りの植物を集めて染めている様子

    周りの植物を集めて染めている様子

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