地域再生を考える

2023年1月掲載

団地を一つの大きな家族に
誰もが「ほどほど幸せ」に暮らせる社会を

株式会社ぐるんとびー 代表取締役 菅原 健介さん

株式会社ぐるんとびー 代表取締役
菅原 健介さん
1979年生まれ。広告業の営業職として勤務後、理学療法士に転職。東日本大震災後、医療ボランティア団体の現地統括コーディネーターとして石巻・気仙沼で活動。2012年有限会社ナースケアの小規模多機能型居宅介護『絆』で管理職を務める。2015年株式会社ぐるんとびーを起業し独立。
背景と目的

活動のきっかけは、東日本大震災だ。

震災を機に全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」の被災地支援チーム現地コーディネーターとして働き、災害支援活動を続ける道を選んだ。支援に訪れた宮城県石巻市には不安や悲しみがあふれていた。そんな状況の中で、人を救ったのは人とのつながりだった。助け合い、声のかけ合いが、生きる希望を支える力であり、その原点はご近所同士の助け合い、思いやりだった。

人のつながりの弱い地域は多くの支援を必要とし、地域コミュニティを活性化する仕組みの必要性を痛感した。同時に、寄付や補助金による活動にも限界を感じた。

地域をつなげるハブとして、集合住宅に介護保険事業である小規模多機能型居宅介護を入れることで、安定的に地域コミュニティの活性化につながる拠点がつくれると考えた。拠点施設としての役割とさまざまな世代の交流の実現を目指し、『団地を一つの大きな家族に』というスローガンを掲げ『ぐるんとびー』を設立。団地の一部屋を介護施設として活用し、事業を開始した。既存にないモデルだったため、理解されるのが難しかったが、「常にこれが正しいという正解はない」という対話の精神を基礎に挑戦を続けている。

活動内容と成果

①団地内での看取り率は90%

小規模多機能型居宅介護施設に看護師がおり、隣にある看護小規模多機能型居宅介護や訪問看護ステーションと連携することにより、24時間365日切れ目のないケアを提供することができるため、団地内での看取り率は90%を超える。

本人のやる気、強みを引き出すケアも実践。「畑仕事がやりたい」「料理がしたい」などの希望を取り入れている。

②多世代交流、地域活性のハブとしての機能

認知症や精神疾患のある高齢者をはじめ、若者、子育て世代の夫婦、シングルマザーなど、4年間で21世帯、39人が団地に引っ越し、暮らしている。スタッフと認知症のある高齢者、シングルマザーと認知症のある高齢者のルームシェアをマッチングすることで、要介護高齢者である前に、同居するおじいちゃん・おばあちゃんという認識で関わることができるようになった。

また、自治会公認の介護事業所、防災拠点にもなっている。生活と福祉の壁がなくなることで、地域活動に興味を持った若手が自治会役員となり、平均年齢が76歳から40歳に下がるなど、自治会役員の若返りが実現、自治会の持続可能性が向上した。

③低コストで展開可能

ぐるんとびーを整備する費用は約450万円。助成金も使っていない。大きな介護施設をつくる必要がなく、視点を変えると同集合住宅内の239戸の部屋すべてがサービス付き高齢者住宅として機能することも可能。有料老人ホームや特養等の施設を新設するより格安である。

成功した取り組み

福祉を健康改善の目的ではなく、まちづくりの観点から「団地を一つの大きな家族に」というコンセプトを掲げ活動に取り組んだ。これが成功した要因であると考える。収益事業としての福祉サービスではなく、あくまでも住民の互助活動をサポートする機能として既存の介護制度を活用した。

その結果、介護だけでなく、自治会活動や子育て、障がい、待機児童、不登校支援などの活動に広がり、そういった悩みを抱える人を支えることができている。半面、「住まいに介護が入ってくるな!」「株式会社がなぜ地域活動をしているのかわからない」など一部の住民からの反発があり、株式会社とは別に、特定非営利活動法人ぐるんとびーを設立し、周囲が理解しやすい枠組みもつくった。

一人一人の「ほどほど幸せ」な暮らしのためには、「ほどほどの不都合」も譲り合う必要がある。失敗や衝突を恐れず、チャレンジを諦めないということが重要であるとわかった。

私たちの新たな切り口は、住民と企業が一体化して生活に溶け込むように福祉を提供するということ。介護する側、される側という枠組みを超えて「一住民として」居住する集合住宅を目指した。スタッフ約10名が住民として暮らし、一人の家族・隣人としてケアを実践し、その人の人生の物語に関わっている。事業範囲は広く、御用聞き、健康相談、司法書士相談、ママさんの産後リハビリ、子どものスポーツトレーニング、防災活動、八百屋、葬儀まで行う。

その取り組みが各種メディアにも取り上げられ、国内外での評価につながっている。

まとめと展望

私たちは、設立から7年間、つながりの中でほどほど幸せを感じられる街づくりを目指してきた。団地をうまく活用することで、多世代の交流が生まれた。健康のために努力するのではなく、やりたいことや役割を通じて社会に参加していることで最期まで自尊心を持ち、ほどほど幸せに暮らしていける。

高齢になってもいきいきと生きる姿を次の世代に見せていくこと、弱っていく姿を見せていくこと、団地で葬儀を行いながら生と死を切り離さずに、あたりまえに死んでいく姿を子どもたちや地域で共有していくこと自体が、地域での次世代への生きる教科書だ。

そして共に暮らすことを通じて起こる衝突、対話そのものが生きた学びになり、社会教育の学び舎になっている。これからは他の地域やアジア地域での展開も視野に入れ、活動を広げていきたい。

暮らしの中のハイパーレスキュー設立へ

上記の取り組みの他に24時間365日対応の看護やケア職によるレスキュー活動を行っている。土日でケアマネジャーや包括支援センターに連絡がつかず困窮している家庭からのSOS。介護保険制度の限度額ではサポート量が足りず、虐待につながっている家庭の支援を続けてきた。

現状、ボランティア活動として対応しているが、ケアのレスキューについての活動も拡大していく。今後は介護事業所だけではなく、公益性のあるケアのプロによる『暮らしの中のハイパーレスキュー』が必要だ。

誰もが「ほどほど幸せ」に暮らせる地域社会の実現に向けてトライ&エラーを繰り返しながら、これからも活動を続けていく。

「地域再生を考える」編集委員会

  • ぐるんとびーの小規模多機能型居宅介護施設が一室に入る団地

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