地域再生を考える

2022年12月掲載

WEB3.0時代の地域活性化
地域コンテンツを重視した戦略がカギに

KPMGコンサルティング ディレクター 大島 良隆さん

KPMGコンサルティング ディレクター
大島 良隆さん
ヘルシンキ工科大学、慶應義塾大学大学院修了後、設計事務所、東京都、シンクタンクを経てKPMGコンサルティング入社。ビジネスイノベーションユニット スマートシティチーム ディレクター、KPMGモビリティ研究所コアメンバー、(一社)京都スマートシティ推進協議会アドバイザーを兼任。
WEB3.0時代とは

昨今、SNSやふるさと納税などの浸透により、これまで知ることが難しかった地域の素材やコンテンツを簡単に知ることができ、また個人で気軽に応援することもできるようになりました。

今後、さらなる技術革新により、WEB3.0時代では、地域のコンテンツ力、個人の発信力がより重要視されると推測されます。

1990年代、WEB1.0時代は自由にホームページをつくることができるようになり、WEB上での情報発信が進みました。2000年代のWEB2.0時代になるとSNSの誕生により、画像や動画の共有を通じた双方向でのやりとりが容易になり、スマホが日常生活に欠くことのできないものとなりました。一方で、スマホによるWEBサービスを支えるGAFAM(Google,Amazon,Facebook,Apple,Microsoft)が台頭し、今日において情報と利益を寡占している状況となっています。個人情報や趣味嗜好、行動履歴などが情報管理という視点で社会問題にもなっています。

WEB3.0時代では、ブロックチェーン技術により、自身で情報を管理することが期待されています。そのような時代においては、地域のコンテンツ、自身のスキルなどを自ら管理することが必要となります。

これまでの時代の変化をみると、技術変化に応じて、地域モデルも変化してきているため、今回のWEB3.0時代も地域への影響は大きいと考えます。(図①)

コンテンツ重視型の地域モデル

地域のコンテンツ、特にスポーツや文化、健康は地域活性化の核として期待されています。理由の一つとして、多様なプレイヤーを巻き込みやすいコンテンツであることが挙げられます。

多様なプレイヤーを巻き込む視点では、スタジアム/アリーナを核としたエリアマネジメントや株式投資型クラウドファンディングによるプロスポーツチームの経営など、海外では取り組みが進んでいます。国内でも「地域での議論を促す場」や「コミュニティ」の取り組みは増えており、また社会的価値と経済性を両立させる新しい法人の形態の議論が政府でも進んでいます。技術や社会の変化に組織形態、法制度が追い付いていないのが状況ですが、ブロックチェーン技術を活用したDAO(Decentra lized Autonomous Organization:自律分散型組織)という組織形態は米国では既に法制度化されており、国内でも議論が始まっています。

WEB3.0時代を見据えた地域活性化のための制度づくりが急がれます。

DAOとは

DAOはブロックチェーン上に構築され、中央集権型でない組織で、誰でも参加することが可能です。すべての契約や取引、権利関係の構築はスマートコントラクトにより自動的に実装され、ブロックチェーン上に記録されるため、透明性が高く、公平性に富んでいます。(図②・図③)

地域でのDAOの事例

米国のワイオミング州とテネシー州では、DAO法が施行されています。2021年7月に施行されたワイオミング州では、通常の会社組織との差異として、①組織運営をメンバーによる人的管理型DAOにするか、②事前設定されたプログラムに基づく管理型DAOにするか、選択することができます。

プログラムに基づく管理型DAOにてプロジェクトを始める場合、プロジェクト実行に向けた提案方法からDAOメンバーによる投票ルール、投票日程、投票結果に基づく資金送金プロセスまで事前に決定されたルール通りに実行することになります。

DAO組織はその活動や財務状況についてブロックチェーン技術を活用し誰もが閲覧可能でありながら改ざんできない台帳で管理されます。また、意思決定プロセスを含めて、活動状況や収支の状況がリアルタイムで閲覧可能です。すなわち、一度ルールを決めてしまえば、組織での意思決定から組織運営、各種契約まで自動的に行うことができます。

ワイオミング州、テネシー州のDAO法では、定款に記載すべき内容として11項目が挙げられています(表①)。

国内では、DAOに関する法制度はなく、新潟県旧山古志村、東北全域、岩手県紫波町などで個別の取り組みが始まっています。

例えば、人口減少に悩む新潟県長岡市山古志地域(旧山古志村)の地域団体「山古志住民会議」は、村の特産錦鯉のNFT(非代替性のトークン・証拠)アート作品を地域の「電子住民票」として、世界で初めて2021年12月から販売。10カ月で実際の住民約800人を上回る1000人以上の「デジタル村民」が生まれました。この活動を活かし、今後、旧山古志村DAOの設立を目指しています。

今後の「日本版DAO法」の成立が組織運営の透明化、効率化、組織革新の一つの解として期待されています。

地域DAOの可能性と課題

人口減少による過疎化に悩む地方では、地域DAOを通じたデジタル住民(実際に地域に住んでいなく、遠隔に住むWEB上の住民)からの資金調達や地域活性化のアイデアの獲得は、今後の地域を変える可能性があります。

地域DAOでは、ブロックチェーン技術を活用したオンラインでの権利のやりとりなどが発生するため、セキュリティは重要な視点であり、セキュリティを含めた技術的視点とオンラインでの権利の法律的な位置づけは大きな論点です。

今後、DAOのようなデジタル技術を活用した多様な個が参画可能な組織に加えて、社会的価値と経済性を両立する組織が融合したソーシャルDAOのような組織の組成が期待されます。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 図① WEBの変化と地域モデルの関係性

    図① WEBの変化と地域モデルの関係性

  • 図② 中央集権型と自律分散型

    図② 中央集権型と自律分散型

  • 図③ DAOの特徴

    図③ DAOの特徴

  • 表① DAO法で必要とされる定款項目

    表① DAO法で必要とされる定款項目

  • 棚田の美しい風景が広がる新潟県の旧山古志村(現長岡市)。電子住民票を導入し、1,000人以上もの「デジタル村民」が生まれた

    棚田の美しい風景が広がる新潟県の旧山古志村(現長岡市)。電子住民票を導入し、1,000人以上もの「デジタル村民」が生まれた

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