老舗温泉街でグランピングを
自由と自然を提供する上質なアウトドアホテルの実現
- GKS.com/ザ ベース グランピング湯河原 支配人
奥原 英亮さん - 神奈川県生まれ。学生時代の海外留学時の体験によりホテル、サービスの世界にのめり込む。小さなゲストハウスから外資系メガホテルまでさまざまな宿泊施設の立ち上げ、運営を経験し今に至る。現在は、支配人としてグランピング場の運営、地域再生へのチャレンジにまい進中。
老舗温泉街で新たな試みを
神奈川県南西部に位置する湯河原は、関東の奥座敷と謳(うた)われてきた歴史ある温泉場。雄大な相模湾を臨み、箱根の山々を背後に控えた自然豊かな地形にある。駅から奥湯河原へと続く道筋には、旅館や商店が立ち並び、古き良き温泉街の風情も残っている。
この街のちょうど中腹にあたる高台に、わが社(株式会社GKS.com)が自家源泉つきの土地を入手したのは今から3年ほど前のこと。とはいえ、わが社は、建設会社が母体。これまで温泉との関わりがあったわけではなく、たまたま縁あって手にはしたものの、荒れてしまった山間の土地をどう生かすべきか答えを出せずにいた。高級ホテルや旅館を作ったとして、競合ひしめくこの湯河原ではとても勝てる気がせず、何か新しい手を打ちたかった。
自由を提供する上質なアウトドアホテル
折しもコロナ禍により、旅行スタイルは非接触が主流となり、密を避けるべくキャンプブームが到来していた。キャンプの魅力は自然との一体感もさることながら、何よりその自由度の高さにある。食事時間の制約など、旅館やホテルにつきものの、施設サイドのオペレーションに縛られることなく、青空のもと火を焚(く)べ、気ままに過ごせるのが醍醐味(だいごみ)だ。
こうしたキャンプの自由さと、ホテルの快適性を兼ね備えた「グランピング」であれば、湯河原初となり面白いかもしれない。幸い自然環境には恵まれていたので、竹林と雑木林は手入れさえすれば、豊かな景観を生むと思えた。各サイトは離れのように独立型とし、完全なプライベート空間を守る。焚(た)き火のできる開放感あるウッドデッキを中心に据え、それでいて快適に寛げる寝室も不可欠だ。何より、大人が寛げる空間にしたかったので、寝具や備品は上質な物にこだわり、いわば「アウトドアホテル」ともいうべき空間を目指した。
名湯、源泉掛け流しにこだわる
自家源泉を調べてみると、思いがけず稀少な泉質に恵まれていた。湧出量も潤沢で泉温も高かったため、加温や消毒の必要なく「100%源泉掛け流し」に対応できるものだと分かった。
温泉も食べ物と同じように鮮度というものがあり、なるべく手を加えず、フレッシュな湯こそが、活性酸素を取り除き、ひいては心地良さをもたらす。混じりっ気なしの湯河原の名湯を、ぜひ宿泊客に体感してもらいたい。かくして、源泉掛け流し露天風呂が最大の魅力となる、グランピング施設の構想が具体的に出来上がっていった。
地元と手を取り合うことで、利益を地域に還元する
施設建設にあたり、東京に本社を置くわが社としては、既存の協力会社と立ち上げることも可能だったが、あえて地元の工務店と組むことに決めた。メンテナンスの利便性も考慮してのことだが、歴史ある街で新参者に対する警戒心を払拭(ふっしょく)したかったし、またグランピングという新しいスタイルを持ち込むことへの抵抗を少しでも緩和したかったからだ。
この選択こそが、スムーズに地域に溶け込む体制をつくったといえる。地元の工務店を介すことで、観光協会や役場関係者とも当初から好意的につながることができ、食材の仕入業者を紹介してもらうこともできた。宿泊客は主に東京や横浜など関東圏の大都市から来訪するため、利益は外部からもたらされる。結果として、地元業者とのつながりが施設のランニングコストで地域に利益を生む仕組みを築き、町全体で盛り上がるきっかけとなった。
土地の魅力を発信する拠点であり続ける
グランピング滞在時にメインイベントの一つとなる焚き火料理のメニューは、旬の食材を豪快に味わえるよう考案し、地元卸業者協力のもと、鮑や金目鯛など近海でとれる新鮮な魚介を提供している。また、施設内には持ち帰り自由なマルシェを設け、スーパーに売っていない珍しい野菜をそろえることで、地域の食材の豊かさを発信するよう心掛けている。
湯河原初のグランピングであることは、既存施設とバッティングすることなく、旅館やホテルとは別枠の客層が来ることとなり、この意味で湯河原の観光客は純増しているとみなされ、行政には大いに期待いただいている。ひいては、神奈川県主催の旅行関係のビジネスマッチングイベントにおいて、観光協会から湯河原代表に推薦いただくまでになった。
今後もグランピングを通じて、温泉と食の素晴らしさを認知してもらい、地域の魅力を体感できる拠点であり続けるようアップデートしていきたい。
「地域再生を考える」編集委員会
- 団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり -
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所 - 定価2,090円(税込)/水曜社
- 団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある -
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所 - 定価2,750円(税込)/水曜社
(無断転載禁ず)